497話 街?
あれから、それなりの時間をかけて……
どうにかこうにか、最南端の街に辿り着くことができた。
道中、獣や魔物に襲われたこともあったけど、怪我人はなし。
これも、うまくサポートしてくれたフェンドリック商会の人達のおかげだと思う。
ただ、向こうも、無事に辿り着けたのは僕達のおかげと思っているみたいで……
おあいこ、っていうことで。
「それにしても……ここが、最南端の街かぁ」
なんとなく、きらびやかな街を想像していたのだけど……
現実は悲しい。
とても小さな街だ。
下手をしたら村と間違えてしまうくらいに。
「村のようなところで驚いていますか?」
「えっと、その……」
「はは、隠す必要はありませんよ。実際、その通りですからね。ここ……ライラックは」
ライラック、っていうのか。
改めて見ると、一本、大きな道がまっすぐに伸びている。
その左右に商店など。
そこから奥に行くと、民家が並んでいた。
そこで終わり。
それ以上の建物や観光地的なものはない。
獣や魔物から街を守る柵は、必要最低限といった程度のもの。
……大丈夫なのかな?
「獣や魔物の心配でしたら、問題ありませんよ。なぜかわかりませんが、南に向かえば向かうほど獣や魔物が減る傾向にありましてね。この街も、滅多なことで襲われることはありません」
僕の疑問を察したらしく、フェンドリックさんがそう説明してくれた。
南に向かえば向かうほど、獣や魔物の数が減る……
もしかして、『世界の果て』が関係しているのかな?
『世界の果て』に、聖域に通じる道があるらしいから……
その影響で、この辺りは安全になっている、とか?
根拠のない推測なので、言葉にはしないでおこう。
「ここ、宿はあるんですか?」
「ええ、安心してください。一見すると、なにもない村のような街に見えますが、少し離れたところで特殊な鉱石を採掘することができましてね。その鉱石はライラックでしか取れず……そのため、私のような商人がやってくることが多いのですよ」
「だから、宿もたくさん?」
「はい、その通りです」
よかった。
野宿が続いていたから、ベッドで休みたい。
ソフィア達はお風呂にも入りたいだろう。
しっかりと作られた馬車だから、思っていたよりも快適な旅ができたけど……
それでも、屋根のあるところで休めるのは大きい。
「オススメの宿とかありますか?」
「そうですね……基本、どこも良いところですが。強いて挙げるのなら、私がいつも利用するところですね。よければ、ご一緒しませんか? 同じ宿ならば、『果て』についての情報も、すぐに共有できるかと」
「ありがとうございます」
フェンドリックさんのところで、『世界の果て』に関する情報を集めてもらう。
その対価はすでに払っておいたので、しばらくは、このライラックに滞在することになるだろう。
「では、案内いたしましょう。こちらへ」
「はい」
フェンドリックさんに案内されて、三階建ての大きな宿に。
軒先にたくさんの花が飾られていて、とても綺麗なところだ。
剣術大会の賞金がまだまだ残っているから、宿代は問題ないと思うけど……
部屋が埋まっていないか、そこは心配だ。
でも、それは杞憂に終わる。
一人部屋を一つ。
三人部屋を一つ、それぞれ確保することができた。
ソフィアやレナは、四人部屋でみんな一緒でいいのに、と言っていたけど……
うん、それはダメ。
なんか、こう……とても大変なことになるような気がした。
ペットOKなのも助かる。
スノウとマシュマロだけ馬車で……なんていうのは、できないからね。
リコリスは……ペット枠なのかな?
それとも、人枠?
「なにはともあれ……今日は、ゆっくり休もうか」
「そうですね。基本、馬車を走らせていただけとはいえ、けっこう疲れてしまいました」
「ボクも疲れたー……フェイト、後でマッサージしてほしいな♪」
「えっ」
「……フェイト?」
「僕はなにも言っていないよ!?」
……こうして、ライラック初日はのんびりと過ぎていく。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新連載です。
『おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~』
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