494話 なにか隠している?
「よし」
飛びかかってきた魔物を斬り捨てて、周囲に視線を走らせた。
十数匹の魔物の死体。
そこで打ち止めらしく、援軍が現れる様子はない。
「リコリス、人はいるかな?」
「んー……いないわね」
リコリスが魔法を使い、周囲を探知してくれた。
「あたし達を中心とした半径300メートルだけど、人間の反応はないわ。それ以上はわからないけど……」
「そこまで離れることはないと思うから、盗賊が魔物をけしかけた、っていう疑問は捨てても良さそうだね。ひとまず、これで依頼完了かな?」
「じゃあ、魔物の死体の処理をして……」
倒した魔物を一箇所に集めて、それから草木で覆い、火を点けた。
急いでいるとか、特に理由がない時は、こうしている。
火葬しているわけじゃなくて、アンデッド対策だ。
必ずというわけじゃないけど、放置された魔物の死体はアンデッドになることがある。
それに、他の魔物を誘う餌になる。
だから、できる限り焼くようにしている。
「うん、完了。みんなのところに戻ろうか」
「ねえ、フェイト。あの商人、信用できるの?」
「リコリスは信用できない?」
「んー……悪人じゃないと思うけどね。ただ、あいつ、どこまでいっても『商人』だと思うわ。損得勘定で動くから……」
「マイナスになると判断されたら切り捨てられる?」
「かもね」
ありえる話だ。
その辺り、商人は冒険者よりも厳しいという話を聞く。
「それに、なーんか隠しているような気がするのよね」
「なにか、って?」
「わからないから、なにか、なのよ。それが良いものなのか悪いものなんか、そこはわからないけどね。美少女探偵リコリスちゃんもお手上げよ」
「うーん」
考える。
しばらく考えて、結論を出した。
「それでも、しばらくは協力しよう」
「いいの?」
「いいよ。さっきも言ったけど、最初から疑うよりは、信じて裏切られる方がまだマシだよ」
「はー、まったく。あんたって、お人好しねえ。リコリスちゃん、心配だわー。将来、詐欺師とかに引っかかりそう」
「あはは……その時は助けてほしいな」
「ふふーん、まあ、仕方ないわね! 天使美少女リコリスちゃんにお任せあれよ!」
天使なのか妖精なのか、どちらなんだろう?
――――――――――
魔物の討伐をして、その死体を燃やして……
それからフェンドリックさんのところへ戻り、報告をした。
「……というわけで、あれは、たまたま遭遇した魔物の群れかと」
「なるほど……わかりました、納得です。ありがとうございます、とても助かりました」
「フェイト、フェイト。ボクも、ここで魔物を追い払っていたよ? 褒めて褒めて♪」
「うん、レナもありがとう」
「えへへー♪」
レナが犬だったら、尻尾がぶんぶんと横に振られているだろう。
「ソフィアは?」
「ボク達の馬車で、アイシャ達の様子を見ているよ」
「そっか。じゃあ、僕達は……」
「失礼」
フェンドリックさんが口を開いた。
「お礼の話ですが、事前に話した通り、南の街に到着した後になります」
「はい。それで大丈夫ですよ」
「ただ、まだまだ距離があるため、無事にたどり着けるかどうかわからず……もう一つ、依頼をしたいのです。私達の商隊の護衛をしていただけないでしょうか? 私達で雇った護衛もいますが、フェイト殿達が加われば鉄壁となる。安心して移動できるでしょう」
「えっ」
「その……もしかして、なにか不都合が?」
「あ、いえ。そういうわけじゃなくて……元々、一緒に行動するつもりだったので。まだ危ないていうのは確かだし、僕達が一緒なら、今回みたいに幅広い対応が可能になるから……だから、僕達の方からお願いします。一緒に南の街へ行きませんか?」
「……」
「どうしたんですか?」
「いえ……まさか、ここまでとは」
なんで、フェンドリックさんは笑っているのだろう?
でも、嫌な笑みじゃない。
楽しそうな感じだ。
「ええ、ええ。ぜひ、お願いいたします。あぁ、もちろん、別途依頼料はお支払いいたします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして、僕達は、フェンドリック商隊と一緒に南の街を目指すことになった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新連載です。
『おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~』
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