492話 フェンドリック・アルトマイト
「ですが私は、あなたのことをとても頼りにしていますよ」
え?
まったくの予想外の言葉に驚いてしまう。
そんな僕の反応を気にすることなく、男性は笑顔で話を続ける。
「あなたは、もしかして、フェイト・スティアート殿では?」
「えっ、なんで知っているんですか?」
「やはり、そうですか。いえ、なに。ソラスフィールの剣術大会で優勝した少年がいると耳に挟みましてね。その特徴が、あなたと一致しているのですよ」
「へー。けっこう離れたところにいるのに、あんた、よくそんな話知っているわね」
リコリスが感心した様子で言う。
「商人は情報が命ですからね。様々な情報を取り扱っているのですよ」
「情報を……」
……もしかしたら、聖域や、あるいは果てについて知らないだろうか?
知っているとしたら、この先、旅が楽になるかもしれない。
「おっと、申し遅れました。私は、この商隊を率いる、フェンドリック・アルトマイトと申します」
「改めて、フェイト・スティアートです」
「可憐な美少女リコリス様よ!」
ついに、自分で様付けをするようになってしまった……
リコリスの将来が真面目に心配だ。
行き遅れたりしないかな?
いや、僕が言えたことじゃないけどね。
「フェイト殿にリコリス殿ですね? では、報酬の話をしたいのですが……」
「あ、その報酬なんですけど、情報で払ってもらう、というのは可能ですか?」
「ふむ? それは、もちろん可能ですが……どのような情報でしょうか? 場合によっては、釣り合わない、あるいは、求める情報を持ち合わせていない、ということがあるのですが」
「僕達、南の『果て』を目指しているんです」
「ほう……『果て』を」
「もちろん、このまま進むわけじゃないです。最南端の街に立ち寄り、そこで情報収集や準備をしようと思っていたんですけど……もし、フェンドリックさんが『果て』に関する情報を持っていたら、教えてほしいな、と」
「なるほど、なるほど」
フェンドリックさんは納得したように頷いて。
次いで、考えるように顎の髭を指先で撫でる。
「……残念ながら、『果て』に関する情報は持ち合わせていません。ないことはありませんが、噂程度のレベルで、おそらくはフェイト殿達もすでに知っていることでしょうな」
「そうですか……」
「ただ、偶然、私達の目的地も最南端の街なのですよ。そこで相談なのですが……情報を、報酬は後払いというのはいかがでしょう?」
「後払い?」
「幸い、最初の目的地は同じ。しばらく街に滞在するのでしょう? その間に、我がフェンドリック商会は、『果て』に関する情報を集めましょう。そして、フェイト殿達に渡しましょう」
「なるほど」
「もちろん、都合のいい話ということは理解しております。私共を信頼していただかないと成立しないのですが……」
「はい、大丈夫ですよ」
「……」
即答したら、奇妙な顔をされてしまう。
僕、なにかおかしなことを言ったかな?
「えっと……よろしいのですか?」
「はい、お願いします」
「その……私共が嘘を吐いていたり、約束を反故にするかもしれないのですが……」
「そんなことはしませんよ。僕は、フェンドリックさんを信じることにしましたから」
「……それで、もしも裏切られたのなら?」
「えっと……ど、どうしよう、リコリス?」
「あんたねぇ……」
「まあ……うん。その時は、その時です。疑うよりも信じた方が気持ちいいですから」
「……」
フェンドリックさんはキョトンとして、
「はっはっは!」
それから、豪快な声で笑う。
「いやはや。参りました。噂の剣術大会の優勝者は、思っていた以上に素晴らしい方のようですな。試すようなことを言ってしまい、申しわけありません」
「あれ、試されていたの、僕?」
「私共から持ちかけた話は本当ですけどね。ただ、私共からしても、フェイト殿達を信じるに値するか、それはなんともいえない。故に、そこそこの距離をとらせていただこうと思っていましたが……気が変わりました。この先、最大限の援助をさせていただきましょう」
「本当ですか!?」
「もちろん、依頼成功が前提ですが」
「はい! がんばります!」
こんな言葉をかけてもらえるなんて、思ってもいなかった。
よし!
僕を信頼してくれたこと、後悔してもらわないようにがんばらないと!
「じゃあ、行ってきますね」
「はい、お気をつけて」
「あ。僕の馬車に仲間が残っているので、いざという時は彼女達を頼りにしてください。なにがあろうと、絶対になんとかしてくれると思います」
「ほう、それは心強い」
この感じ。
たぶん、フェンドリックさんはソフィアやレナのことも知っているんだろうな。
……アイシャやスノウ。マシュマロのことも知っているのかな?
警戒するべきなのか。
それとも、その辺りも含めて信頼するべきなのか。
僕達の方は、まだまだ考えないといけないことが多そうだ。
「とりあえず……今は、やるべきことをやろうか」
魔物が目撃されたという場所に向かう。
ややあって、僕は剣を抜いた。
すでに魔物の生息地に侵入していたらしく、あちらこちらから殺意が向けられてくる。
「よしっ、来い!」
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
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『おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~』
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