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489話 南へ

 カタカタカタ。

 馬車がゆっくりと走る音が聞こえる。


 がんばって良い馬車を調達したので、乗り心地はかなり快適だ。

 それほど揺れることはない。

 それに、クッションなども敷いているから、酔うということもない。


「すー……すー……」

「わふぅ……」

「にゃぅ……」


 アイシャ達は、一塊になって寝ていた。

 それぞれが体を寄せ合い、互いを包み込むようにしている。

 こうしてみていると兄弟のようだ。


 アイシャは巫女。

 スノウとマシュマロは聖獣。

 実際、兄弟に近い関係なのかもしれない。


「ねーねー」


 御者台の方から声が飛んできた。

 間の仕切りを開けると、手綱を握るレナの姿が。


「そういえば、『果て』までどれくらいかかるの?」

「えっと……」


 地図を取り出して確認する。


「まずは、最南端にある街まで……一ヶ月、っていうところかな? そこで改めて準備をして、未踏地域へ」

「『聖域』という謎に包まれたところを探さないといけないので、そこからさらに数ヶ月はかかるかもしれませんね」

「入り口を見つけたとしても、入る方法とか調べないとダメでしょ? プラス1週間、ってところじゃん?」

「うへー……先は長いねー」


 レナはげっそりとした顔に。

 気持ちはわかる。


 目的地は定まっているけど、でも、そこに至るまでの道が不明。

 確実な行き方はわからず。

 どれくらいの時間がかかるかわからず。

 なにもかもわからないことだらけ。

 とても大変だと思う。


 でも……


「いいんじゃないかな?」


 未踏の地の踏破を目指して、何ヶ月もかけて旅をする。

 それは、まさしく『冒険』だ。


 子供の頃に読んだ本。

 そして、そこから得た夢を実際にこの身で体験することになる。


「……少しワクワクしない?」


 そう話すと、ソフィアとレナは苦笑して。

 次いで、笑顔で頷いた。


「そうですね。これぞ、まさしく『冒険』ですね」

「ボクは冒険者じゃないけど、けっこう憧れるものがあるね。楽しそうかも」


 危険があるかもしれないから、決して楽観はできない。

 もっと気を引き締めないといけないのだけど……

 でも、楽しむ心の余裕くらいは残していていいと思う。


「あたしは、もっと楽したいんですけどー」

「リコリスは相変わらずだね」

「美少女可憐妖精だから、大変なことは向いていないのよ。海辺でのんびり日焼けしつつ、ドリンクを飲んでいたいわ」

「そして波にさらわれる」

「そうそう、そのまま海の果てに……って、なんでよー!?」

「あはははっ」


 なんだかんだ、レナは、すっかり僕達のパーティーに打ち解けた。

 最初はどうなることかと思ったけど……

 今は、一緒にいて良かったと思っている。


 ただ……


 僕は、レナに好意を寄せられていて。

 でも僕は、ソフィアのことが好きで。


 この問題はなんとかしないと。


 先のことはわからない、っていうんだけど……

 でも、ソフィアを好きにならない未来がまるで想像できない。

 僕の心は、ずっと彼女のところにあると思う。


 だから、レナのことは……


「はぁ……どうすればいいんだろう?」

「なによ、フェイト。トイレでも行きたいの? なら、そこらでしてくれば?」

「……リコリスは悩みがなさそうでいいよね」

「ふふん!」


 そこ、ドヤ顔をするところじゃないと思うよ。

◆◇◆ お知らせ ◆◇◆

さらに新連載です。

『おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~』


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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 作者様、しばらくぶりです。色んな小説見て回って、再び戻ってきました! リコリスは相変わらずでなんか安心しました。 妖精が出てくる小説は何個もみましたが、リコリスは何か安定感あって安心します…
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