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49話 女王

「ふむ……少し失敗しましたね。できるなら、三分の二は消し飛ばしておきたかったのですが」


 とてつもない成果を叩き出したというのに、しかし、ソフィアは満足した様子がない。

 もうちょっと倒しておきたかった。

 そんなありえないことを言う。


 半分……二万五千もの魔物を一瞬で消し飛ばしただけで大成果と言えるし、満足して当然なのだけど……


 ソフィアは、まだまだ未熟という様子で、納得いかない顔をしていた。


「やはり、久しぶりに使う技は加減が難しいですね。できることなら、定期的に練習をしておきたいのですが……」

「いやー、今の技を定期的に使われたら、さすがに困っちゃうかなー」


 クリフは呑気にツッコミを入れるものの、内心ではかなり驚いていた。


 これだけの滅茶苦茶な攻撃を繰り出すことができる。

 さすが剣聖と驚いていたが……


 それだけではなくて、ソフィアには、まだまだ余裕があるように見えた。

 あのような攻撃を繰り出せば、普通、そこで力尽きてしまうが……

 彼女はまだまだ元気そうだ。


 いったい、どれだけの力があるのか?

 ソフィアの底の知れない力に、さすがのクリフもヒヤッとするのだった。


「さて……」


 ソフィアは聖剣を背中の鞘にしまい、腰に下げている別の剣を抜いた。


「残り、二万五千……街の被害をゼロにすることを考えると、ここで二万は潰しておきたいですね」

「当初の予定より数が多くない?」

「男なのだから、もっと気合を入れてください」

「今は男女平等の時代だよ」

「まったく、情けない人ですね。フェイトなら、そのようなことは言いませんよ」

「彼は彼で規格外だから、同じにされると、普通代表としてはちょっと複雑かなあ」


 あなたも十分に規格外でしょうに。

 百以上の魔物を従えるクリフを見て、ソフィアはジト目を向けた。


「……とにかく、やりますよ。泣き言は聞きません。あなたが持ってきた仕事なのですから、きちんと務めは果たしてください」

「もちろん、がんばらせてもらうよ。でないと、今もがんばっているであろう、スティアートくんに申しわけないからね」


 そう言うクリフは、普段と違い、真面目な顔をしていた。


 本気でフェイトのことを気遣っているのでしょうか?


 ソフィアは、わずかではあるが、クリフのことを信頼することにした。

 背中を預けるまでとは言わないが……

 一緒の戦場に立ち、同じ敵に立ち向かう。

 それくらいは問題ないだろうと、そういうレベルの許すではあるが。


「いきますよ」

「了解」


 未だ万を超える魔物の群れを迎え撃つべく、二人の超人が出撃した。




――――――――――




「キィアアアアアアアァッ!!!」


 ゼフィランサスが叫ぶ。

 金属をこすり合わせたかのような不快な鳴き声で、思わず顔をしかめてしまう。


 それでも、足を止めることはない。

 というか、止めたら死んでしまう。


「ぴゃー!? きたきたきた、アイツ、また攻撃をしかけてきてるわよ!?」


 肩に乗るリコリスが涙目で悲鳴をあげていた。

 でも、それも仕方ないと思う。


 地面から植物の蔦で構成された槍が次々と生えてきて、俺達を串刺しにしようとする。

 幸いというべきか、攻撃速度はそれほどのものじゃない。

 走ることで十分に回避できるのだけど……


「くっ」


 距離を詰めようとすると、蔦の槍の数が倍以上になり、近づくことができない。

 多少の怪我を覚悟すれば、突撃することもできなくはないんだけど……


 でも、コイツは毒を使うという。

 もしかしたら、蔦にも毒が回っているかもしれない。

 そう考えると、下手な行動をとることはできない。


「ぎゃー!? 今度は四方八方からきたー!?」

「大丈夫!」


 リコリスの言うように、地面から飛び出した蔦が前後左右から襲いかかってくるのだけど……

 でも、焦ることはない。


 落ち着いて剣を振り、その全てを斬り落とす。

 相変わらず攻撃の速度は遅いため、対処も問題はない。


「あ、あんた、けっこう滅茶苦茶強いのね……」

「まだまだだよ。でも、ソフィアに稽古をつけてもらっているから、多少の自信はあるかも」

「自信ないのかあるのか、どっちなのよ」

「あはは、どっちだろう」


 敵の攻撃を食らうことはない。

 避けることができるし、迎撃することも可能。

 ついでに言うと、まだまだ体力的に余裕はある。


 ただ……


 それだけだ。

 こちらから攻め込むことができず、どのようにして倒せばいいか、攻めあぐねていた。


 コイツがスタンピードの原因の女王。

 できるだけ早く倒して、ソフィア達にかかる負担を軽減したいのに……!


「焦るんじゃないわよ」

「リコリス?」


 肩に乗るリコリスが、ぺち、っと頬を叩いてきた。


「気持ちはわからなくもないけど、でも、今はコイツを倒すことだけに集中しなさい。他のことを考えていたら、思わぬミスをするかもしれないし……そもそも、ちゃんと集中しないと倒せない相手よ。しっかりなさい!」

「……うん、そうだね」


 リコリスに喝を入れてもらい、目が覚めたような気分だ。


 ソフィア達のことが心配ではあるものの……

 でも、リコリスの言う通りだ。

 心配するあまりミスをして、僕が失敗をしてしまったらどうしようもない。

 そんなことにならないように、しっかり集中しないと。


「とはいえ、どうしたものかな?」


 ヤツの懐に潜り込めば、なんとかなるかもしれないけど……

 それが難しい。


 以前、ソフィアが使っていた遠距離攻撃を使えればいいのだけど、さすがに、それは無理だ。

 練習もなにもしていないので、ぶっつけ本番で、しかも見様見真似で使えるわけがない。


 どうにかして接近したいのだけど……


「あ……もしかしたら」

「なにか思いついた?」

「うん、ちょっとね。試してみる価値はあるかもしれない」

「なら、やってやりなさい! 大丈夫、失敗しても骨は拾ってやるわ!」

「その時は、リコリスも死んじゃうと思うんだけど……」


 苦笑しつつ、僕は、武器を雪水晶の剣から、別の剣に持ち替えた。

 そして下段に構えて……地面に向けて、大きく振る。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >そして下段に構えて……地面に向けて、大きく振る。 作者側と読者側が考える状況に差があるとは思いますが、「そして上段に構えて……地面に向けて、大きく振り下ろす」の方が自然かも? 「下…
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