488話 さようならは言わない
食料や水などの補充が終わり。
せっかくなので馬車も購入した。
剣術大会で優勝した賞金を使い、けっこう豪華な馬車を選んだ。
ただ乗り降りして、荷物を運ぶだけじゃなくて、寝台などが設置されている。
動く家だ。
これで準備は終わり。
ソラスフィールの滞在を終えて、南に向けて旅立つことに。
……その前に、ライラのところへ挨拶に向かう。
「おや? もしかして、もう出発するのかい?」
ライラは街に残り、研究を続けるらしい。
ソラスフィールにある膨大な資料に囲まれての研究生活を満喫しているようだ。
いつも笑顔で、最近は雰囲気も穏やかになったような気がした。
とはいえ獣人大好き。
研究大好きなところは変わらず。
出発するまで、何度も何度も僕達のところに通い、アイシャやスノウ、マシュマロのことを調べ尽くしていた。
「色々とありがとう。ライラのおかげで、知りたいことを知ることができたよ」
「なに。私の方こそありがとう。ものすごく研究が捗ったよ……ふふふ」
「っ!?」
ライラがニヤリと笑い。
アイシャがびくんと震えて、僕の背中に隠れた。
本当、色々と調べられていたからなあ……
酷いことは許していないものの、それでも、アイシャにとってきつい時間だったらしく、軽いトラウマになってしまったみたいだ。
「あはは、ごめんよ。ちょっとやりすぎたかな?」
「うー……」
アイシャは尻尾を立てて威嚇した。
ライラは苦笑しつつ、言葉を続ける。
「ホント、ごめんってば。ただ……あれは必要なことだったんだ」
「う……?」
「キミは、普通の人間とは色々と違うからね」
「……」
「もしも風邪を引いた時、同じように治療していいかわからない。もしかしたら、キミだけにかかる特別な病気があるかもしれない。そういうことをハッキリさせるためにも、色々な調査が必要だったんだ」
その言葉にハッとさせられた。
アイシャは獣人で……
僕達、人間と似ているようで違う。
僕達は大丈夫でも、アイシャは大丈夫じゃないことがあるかもしれない。
その逆も。
「ライラさん、それは……」
「おっと、ごめんよ。心配させちゃったかな? 安心していいよ。色々と調べたけど、そんなに大きな問題はないと思う」
「思う……なの?」
「私も獣人研究家を名乗っているけどね。完璧じゃないんだ。知らないこともあるし、まだ発見していないこともある。この先どうなるか、それを決めることはできない」
「……」
もっともな話だ。
だからこそ……
「私達が気をつけないといけない……そういうことですね?」
「正解」
ソフィアの言葉に、ライラは笑顔を見せた。
「その様子なら心配はいらないかな。余計なおせっかいだったかも」
「いえ。きちんと指摘していただけると、ちゃんと意識できるので、ありがたいことです」
「そう言ってもらえるとなによりかな。そうだ、これをあげるよ」
ソフィアは、ライラから一冊のノートを受け取る。
「私の研究の成果についてまとめたものだ。もしも、その獣人ちゃんや聖獣ちゃん達になにかあったら、見てみるといいよ。なにか、参考になるものがあるかもしれない」
「ですが……これは、ライラさんの大事な研究成果では?」
「あはは、安心していいよ。ちゃんと、魔法でコピーを取っているから」
ライラは笑い……
そして、握手を求めてきた。
「君達に会えてよかった。また、再会できるかどうかわからないけど……その時は、また、一緒に美味しいごはんでも食べよう」
「……そうですね。ただ……」
「ただ?」
「わからない、とか不穏な言葉はなしにしよう。また会える、さようならは言わない……うん。これでいこう」
「……あはは、そうだね。それがいい」
ライラと握手を交わして……
「じゃあ、また!」
別れの挨拶を……いや。
再会を誓う挨拶を交わした。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について』
https://ncode.syosetu.com/n3865ja/
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