487話 デート・その5
「……んーっ! よし!!!」
ややあって、レナは、がばっと勢いよく僕から離れた。
そのまま天を突くかのように両手を上げて、広げて、叫ぶ。
「なんかスッキリした!!!」
「よかった、元気なレナに戻ってくれて」
「ごめんね、心配かけて。でも、ボクはもう大丈夫だから」
そう笑うレナは、とてもスッキリとした顔をしていた。
「あー……なんかもう、あんなことで悩んでいたのがバカらしいくらい。なんでボク、あんなことでうーあー、ってなっていたんだろう? ものすごい謎」
「あはは。やっぱり、レナはそういう方がいいかな」
「むっ。単純っていうこと?」
「そんなつもりはないよ。レナの良いところ、だと思うよ」
「んー……ま、フェイトがそう言うのならいいか♪」
よかった、笑顔になってくれて。
やっぱり、女の子は笑っている方がいいと思う。
憂い顔とか悲しそうな顔とか、そういうのは似合わない。
なんて。
ちょっとキザだったかもしれない。
でも、本音だ。
「じゃあ今は、全力で釣りを楽しもうかな!」
「あれ、本当に釣りをするの?」
「思い立ったら、ってね」
「……まあ、いいか」
旅の途中、川などで魚を調達する時があるから、釣りセットは持っている。
街の近くに湖もあるみたいだ。
「じゃあ、釣りに行こうか」
「でっかい獲物を釣って、みんなを驚かせようね」
「どれくらいの獲物?」
「んー……10メートルくらい?」
「それはもう魚じゃなくて怪獣だと思うよ……」
苦笑しつつ……
でも、これはこれでいいかと、僕達は湖に向かった。
――――――――――
けっこう粘ったものの、釣りの成果はゼロ。
なにも獲物を得ることはできなかった。
でも、それでいい。
楽しい時間を過ごすことができて……
僕とレナは笑顔だったから、なにも問題はない。
暗くなったから宿へ戻り……
「レナ! あなた、いつの間に抜け駆けを!?」
「へへーん、こういうのは速いもの勝ちなんだよ♪」
「……あ、ソフィアの目がマジだわ。はいはい、アイシャにわんネコ達、こっちおいでー」
「おかーさんとレナ、どうしたの?」
「これから女の戦いが始まるのよ……」
「わふ?」
「にゃん?」
宿に帰った後、ちょっとした騒動が勃発したけれど……
まあ、それも後々で良い思い出になるだろう。
たぶん。
「フェイト、どうしてこの泥棒猫とデートなんてするんですか!? そういうのは、正妻である私の役目ですよ!?」
「えー、正妻が偉いとか、そういうのって差別じゃない? 側室にも色々と餌を与えてくれないとねー」
「あら、側室を自覚するとは。ちゃんと自分の立場をわきまえているんですね」
「まあねー。でも……側室が正室を食べちゃう、ってこともあるから。そうなったとしても、恨まないでね♪」
「……ケンカですね? ケンカを売っていますね?」
「そんなことはないよ? ボクは平和主義者だもん」
「どの口が言いますか! よろしい、ならば決闘です! 表に出てください」
「ねえねえ、フェイト。今日は一緒に寝よう? ふふ、良いこと、してあげるよ♪」
「聞いてください!!! あと、フェイトを誘惑しないでください!?」
うーん、嵐のような時間が流れていく。
とても大変なのだけど……
でも、同じくらい楽しい。
だって、レナが一緒に笑ってくれている。
本物の笑顔を見せてくれている。
それはつまり、彼女が心を許してくれて……
本当の意味で、僕達の仲間になった、ということだ。
「……うん、よかった」
「よくありません! フェイトはどちらの味方なのですか!?」
「もちろん、ボクだよねー♪」
……この後、宿が破壊されるのではないかと心配するほどの大喧嘩に発展するのだけど、それはそれ、これはこれ。
なんだかんだ楽しい時間を過ごすことができるのだった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について』
https://ncode.syosetu.com/n3865ja/
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