486話 デート・その4
「僕は一緒にいるよ」
そう言いつつ、レナに向けて手を差し出した。
レナは目を丸くして、小首を傾げる。
「それ……どういう意味?」
「なんていうか、こう……うまく言えないんだけど、レナの力になりたいんだ」
色々あったけど、レナは仲間だ。
そして……友達だ。
その彼女が悩んでいるというのなら、力になりたい。
一緒に悩んで、支えて、背中を押してあげたい。
「やりたいことがないなら、今からでも探せばいいんじゃないかな?」
「でも、ボクは斬ることしか能がなくて……」
「それを言うなら、僕は昔、奴隷だったよ」
でも今は、冒険者だ。
そして、一人の剣士でもある。
「なにかを始めるのに、遅いってことはないと思うよ。その気になった時、やろうと思った時。その日から始めることができるんだ」
「そう……なのかな?」
「人生の目的っていう、壮大なものじゃなくてもいいんじゃないかな? ほら。小さな趣味から始めてみるとか」
「……趣味……」
「例えば……釣りとか?」
湖岸で釣り糸を垂らすレナ。
その隣で、僕も釣り糸を垂らしていて……
他のみんなは近くの広場で遊んでいる。
そんな光景が想像できた。
「って、なんでフェイト達もいるの?」
「え?」
なんで、と言われても……
「だって、仲間じゃないか」
「……」
「一緒にいるよ」
とても簡単なこと。
そして、当たり前のこと。
それを口にしただけなのに、レナはひどく驚いた様子で、目を大きくしていた。
「一緒にいて……くれるの?」
「もちろん」
「フェイトだけじゃなくて……ソフィアやアイシャ達も?」
「いてくれると思うよ。リコリスとか、旅はたくさんでする方が楽しいわ! とか言いそうだし……ソフィアは、まあ、口ではあれこれ言うかもしれないけど、きっとレナのことを好きだと思うよ」
恋のライバルということで、ソフィアは、時々、レナに対する当たりがきつい。
ただ、本気で嫌っているわけじゃないと思う。
ちょくちょく気にかけているし。
戦闘時は、レナの背中をさりげなく守っているし。
食事の時、ちゃんとレナの好みを聞いていたりする。
そんな些細なこと。
でも、とても大事なこと。
「どうして……そこまでしてくれるのかな?」
「わからない?」
「わからないよ。だってボク、元は敵で……けっこう酷いことをしたし。それに、ソフィアのライバルみたいな感じで……」
「でも、それ以前に、友達じゃないか」
「友達……?」
「うん、友達。二人は仲の良い友達だと思うよ」
「そんなことは……」
「ない」と否定しようとするレナだけど、でも、その言葉は出てこない。
否定しきれない想いがレナの中にあるのだろう。
「だから、みんなも一緒にいるよ。レナは……一人じゃない」
「……」
「迷っているのなら、ゆっくり迷うといいよ。僕達は、待っているからさ。手助けがほしい時は、言って。ちゃんと手伝うよ」
「……フェイト……」
「だから……あまり抱え込まないで。レナが寂しい顔をしていると、僕も寂しくなっちゃうよ」
「……っ……」
レナは軽くうつむいて、唇を噛んで……
こちらに抱きついてきた。
「れ、レナ……?」
「……ごめんね。今は、こうしてもいいかな……? 今だけ、今だけだから……」
「……うん、いいよ」
レナの背中に手を回して、ぽんぽんと優しく撫でた。
そうすると、僕に抱きつくレナの力が強くなって、さらに距離が近くなって……
少しレナの体が震える。
もしかして、泣いているのだろうか……?
でも、それを確認するなんて野暮な真似はしないで……
しばらくの間、僕は、レナの好きにさせるのだった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について』
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