485話 デート・その3
思えば、レナの様子は最初からちょっとおかしかった。
いつものレナと言えばらしいのだけど……
でも、普段と比べると、少しだけ元気すぎたんだ。
まるで、無理をして笑顔を浮かべているような。
「……そこまで深い問題じゃないんだけどさ」
「うん」
無理に聞き出そうとしないで、聞く姿勢に徹する。
「ボクがやってきたことって、なんだったのかなー、って」
「それは……黎明の同盟の時代の?」
「うん」
レナは、黎明の同盟という組織に所属していた。
遥か昔から生きる聖獣。
しかし、憎悪に染まり魔獣に堕ちた。
彼の復讐を果たすために、その思想に共感して、世界に戦いを挑んでいた。
ただ、レナは途中で抜けて……
最後は僕達と一緒に戦ってくれた。
改心した、と言えば聞こえはいいのだけど……
言い換えれば、生き方を変えた、ということにもなる。
それまで指針にしていたものが消えて。
理想も信念も消えて。
なにもかも消えて、心が無になるようなものだ。
「こうしてフェイト達についてきたけど、それは、ボクがフェイトのことを好きだからで……それだけ。特に目的も使命もないんだよね」
「聖域のことは……」
「フェイト達がやりたいから手伝っているだけ。薄情だけど、たぶん、ボクだけだったらなにもしていないと思うよ」
「そっか」
「それで……ふと、思ったんだ。なにも考えていない、なにも思っていないボクは、なにをしたらいいんだろう? ……って」
そういうレナは憂い顔を浮かべていた。
仕事一筋で生きてきた人が、仕事を辞めた途端、燃え尽きたようになってしまう。
それと同じような感じかな?
「やりたいことは……わからない」
「わからないかなあ……」
「なにかないの? 剣だけじゃなくて、えっと……お菓子屋さんになりたいとか」
「うーん……お菓子は好きだけど、食べる専門かな」
「なにか興味のあることは? 趣味は? それらを極めてみる、っていう道もあると思うよ」
「まあ、戦うことは好きかな。あと、食べることも」
「でも」と間を挟んで、レナは続ける。
「本気で取り組んで、一生をかけて追求していきたい、とかそれくらいのレベルじゃないんだよね」
「そっか」
「まあ、そこまで本気にならなくても、人間って生きていけるものだけどさ。でも、なんかこう……」
レナがちらりとこちらを見た。
その瞳に映る僕。
彼女には、僕がどんな風に見えているのだろう?
「フェイト達を見ていると、うらやましいなー、とか。焦っちゃうなー、とか。そんなことを思っちゃうんだよね」
「無理をする必要はないと思うよ?」
「うん、そうなんだけどね。そうなんだけど……ボク一人だけ、なんか、取り残されているみたいで……はぁ」
ため息。
どうも、レナは思っているよりも重症みたいだ。
人生の目的を見失い、迷い、足を止めてしまい、先に進めなくなってしまい……
迷子になってしまっている。
せっかく黎明の同盟から解放されたんだ。
レナには、レナだけの人生を歩んでほしい。
彼女だけの目的と目標と、自分にしかない宝物を見つけてほしい。
そのために……
「僕は一緒にいるよ」




