483話 デート・その1
剣術大会が終わり。
零番図書館で調べごとが終わり。
ひとまず、今後の方針が定まる。
とはいえ、すぐに行動を移すことはできない。
目的地は世界の果て。
冒険者の依頼で例えるなら、最高難易度だ。
入念な準備と情報収集が必要なので、しばらくの間、ソラスフィールに留まることになった。
旅の準備に必要なものの買い出しに出るのだけど……
「おっ、美味しそうなもの発見! ねえねえ、フェイト。食べていこう?」
「さっき、お菓子をたべていなかったっけ?」
「甘いものは別腹だよん♪」
「それ、よく聞くけど、本当に別腹なの? いくらでも食べられて、まったく太らないの?」
「フェイト」
一緒に買い出しに出たレナに、殺意混じりに睨みつけられてしまう。
「女の子に体重の話は禁句……斬るよ?」
「ご、ごめんなさい……」
「うん、よろしい♪」
恐ろしい。
気をつけないと。
とはいえ、確かに、今のは僕もデリカシーが足りなかったわけで……
今後の発言などについても、気をつけた方がいいか。
結局、露店に売っていたドーナツを食べ歩きしつつ、街を見て回る。
「それにしても、広い街ね。色々な店があって、たくさんの住宅があって、特殊な施設もあって……この街だけで、ちょっとした国みたい」
「それ、ちょっとわかるかも。僕も、こんな広い街に来たことがないから、わくわくするよ」
「あれ? 王都は?」
「王都は……うーん。少し観光はしたけど、それよりも戦いの印象の方が強くて」
黎明の同盟と最終決戦を行い。
魔に堕ちた聖獣ジャガーノートと戦い。
……そんな記憶が先行してしまい、あまり楽しい思い出は残っていない。
「なら、ここで楽しい思い出をいっぱい作らないとね♪」
「えっと……僕達は買い出しをしに来ただけで、遊ぶことが目的じゃないんだけど」
「ちょっとくらい寄り道をしたっていいじゃん。それとも、フェイトはボクと一緒に遊ぶのはいや?」
その聞き方は卑怯だ。
「……ちょっとだけだよ?」
「わーい! ありがとう、フェイト♪ だから好き」
「そ、そういうことはあまり……」
「にひひっ、照れるフェイト、かーわいいー♪」
うーん。
ソフィアといいレナといい、僕、女の子に頭に上がらないような気がする。
彼女達が特別なのか。
それとも、根本的に、僕が女性に頭が上がらないタイプなのか。
……どっちでもいいか。
どちらが上とか下とか、そういうところはどうでもいい。
ようするに、一緒にいて楽しい時間を過ごせるかどうかだ。
そこが一番重要視されるところで、他は、割とどうでもいい。
「はい、フェイト」
「ふむっ!?」
レナが口になにか突っ込んできた。
なにかがふわっと溶ける感触。
そして、甘みが口いっぱいに広がる。
「……綿あめ?」
「せいかーい♪ そこで売ってたから、ついつい買っちゃった。はむっ♪」
レナは幸せそうに綿あめを食べる。
にこにこ笑顔だ。
こういうところを見ていると、とても凄腕の剣士とは思えない。
ただの可愛い女の子で……
「あっ。レナ、そのままじっとしてて」
「ふにゃ?」
「……はい、とれたよ」
レナの頬についていた綿あめの切れ端を指で拭い取る。
「ありがと。でも、どうせなら恋人がやるように、舌でぺろってやってほしかったな?」
「えぇ!?」
「はい、もう一回。とらい、あげいん」
レナはわざと自分の頬に綿あめの切れ端をつけて、んっ、とこちらに差し出してきた。
「ほらほら、早くぅ」
「で、でも、さすがにそれは……」
「ボクのためにすることで、他意はない。だから大丈夫。うん、そういうことにしておこう」
「それ、詭弁もいいところだよね……?」
とはいえ、このままなにもしなければ、レナは絶対に引き下がらないだろう。
えっと……よし。
僕は覚悟を決めて、そっとレナの頬に顔を寄せる。
そして……
「ひゃんっ」
レナの頬についた綿あめを舐め取る。
「わぁ……なんか、ゾクゾクってしちゃうね♪ これ、やみつきになっちゃうかも」
「い、一回だけだからね!?」
「ちぇっ、残念。でも……にへへ、嬉しかったよ」
とんでもないことをしてしまったような気がするのだけど……
でも、レナがとても嬉しそうなので、これはこれでよしとしておくことにした。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く』
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