480話 黒薔薇の紋章
黒薔薇の紋章。
マシュマロに関する情報はないと思うけど……
でも、こちらはこちらで欲しい情報だ。
僕は本を取り、閲覧スペースに移動して、じっくりと読むことにした。
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黒薔薇の紋章。
『深淵』と呼ばれている組織の構成員であることを示す紋章のこと。
素材は単純な鉄。
ただ、簡単に真似できないような細工が施されており、コピーは難しい。
深淵。
元は黎明の同盟の関係者であるが、袂を分かち、別の組織を立ち上げた。
それが深淵。
その目的は、聖獣の力を利用すること。
聖獣は強い力を持つ。
産まれたばかりの個体だとしても、その身に抱える魔力は相当なものだ。
また、その体そのものが宝として認識されることが多い。
聖獣の毛、聖獣の牙、聖獣の瞳……
そのどれもが至宝の一品であり、仮に武器を作ったとしたら、後世まで語り継がれるような伝説級の装備が作れるだろう。
強い力を持つ聖獣は神として。
あるいは、女神の使いとして崇められてきた。
しかし、その一方で、邪な心を持つ者に狙われてきた。
己の欲を満たすために。
金を得るために。
名誉を求めて。
多くの者は聖獣の力の前に敗れた。
あるいは、他者から責められ、愚かな行いを止めた。
ただ、我が道を進んだ者もいる。
それが『深淵』だ。
夜よりも深い闇。
黒を凝縮したかのような心。
それらを身に宿す者は、徒党を組み、執拗なまでに聖獣を狙う。
己の欲を満たすことができるまで、なにがあってもなにがあろうと、狙い続けた。
とはいえ、その活動は長くは続かない。
『深淵』の愚かな行動で聖獣の怒りを買えば?
その対象が『深淵』だけではなくて、人間全体に向けられたとしたら?
誇張ではなくて、人間の存続に関わる重大な問題だ。
当時の国は、『深淵』を危険視。
重大な犯罪者、テロ組織と認定して、討伐、あるいは捕縛に動くことになった。
両者の間で激しい戦いが行われて……
幾度となく戦闘が繰り返されて……
血と涙が流れていく。
ただ、それでも前に進み、戦いを制したのは国だ。
『深淵』の創設者、及び幹部メンバーは壊滅。
その他、主要メンバーも討伐、あるいは捕縛されることに。
かなり大規模な戦闘が繰り返されたものの……
しかし、国はその全てを説明していない。
100年に一度の嵐で被害が出た。
研究の失敗で爆発が起きた。
巨大な盗賊団の討伐のために動いた。
……などなど、色々な言い訳を用意して、『深淵』の情報を表に出すことは決してしなかった。
それもそうだろう。
『深淵』の存在が知られれば、必ず真似をしようとする者が現れる。
愚かな行為だと理解しつつも、それでも手を伸ばしてしまうだろう。
聖獣の力は、それほどまでに強力で、魅力的なのだ。
……ここまでに記した情報も一般に公開されることはないだろう。
この書は燃やされることはないだろうが、厳重に管理されて日の目を見ることはないだろう。
だが、いつか誰かの目に触れる。
著者である私は願う。
これを読む者よ。
どうか、正しき心を持つように。
人としての誇りと優しさを捨てないことを祈る。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く』
https://ncode.syosetu.com/n7621iw/
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