460話 ちょっとおかしくない?
本戦、Dブロック。
一回戦、五戦目。
本戦から一試合ずつ順番に行われるようになって、戦いの場となるリングも大きなものに変わる。
相手を戦闘不能にするか。
意識を奪うか。
武器を奪うか。
あるいは、リングの外に10秒、押し出すか。
それらが勝利条件となる。
ちなみに、殺しはNG。
即失格。
また、恣意的な場合は逮捕もありえる。
あくまでも大会であり、殺し合いではないのだ。
そして、僕の対戦相手は……
「へへへ……血、血が見たいぜぇ……あぁ、赤く濡れる綺麗な体を見たい……」
なんか、とてもやばそうな人だった。
短剣をぺろりと舐めている。
時折、白目を剥いていて、子供が見たらトラウマものだ。
この大会、イロモノ選手が多くないかな……?
僕の気のせい?
『さあ、本戦第一回戦、最終試合が始まろうとしています!』
解説のお姉さんの声が聞こえてきた。
本戦に入ったからなのか、心なしか気合が入っているようだ。
『まずは、選手の紹介をしましょう。ブラッド・ロイヤル選手! 血を見ることがなによりも大好きで、空いた時間は自分の体を傷つけてうっとりしているという、ド変態です!』
いや、まあ。
とんでもない人であることに間違いはないんだけど、運営側の人が変態って言っていいのかなあ……?
『対するは、フェイト・スティアート選手! なんと、かの剣聖ソフィア・アスカルトさんの愛弟子だとか! 今大会、私の最推しですね! 強いだけではなくて、可愛い! 可愛い! 可愛いは正義です!』
この運営、大丈夫かな……?
本気で心配になるコメントだった。
『さあ、みなさんが注目する、一回戦の最終試合。勝利の女神はどちらに微笑むのか?』
そんなコメントを合図にしたかのように、審判が手をあげる。
視線で、問題はないな? と問いかけてきたので、小さく頷いた。
「では……はじめ!」
「ひゃっはーーー! 血だ、血を見せろぉおおおおお!!!」
開始と同時にブラッドが飛び込んできた。
速い。
本戦に出場するだけあって、ただのイロモノ選手っていうわけじゃなさそうだ。
踊るような華麗なステップで斬撃を繰り出してくる。
一回、ニ回、三回。
軌道は不規則で読みづらい。
ただ……
「さぁっ、さあさあさあ! 血をくれぇっ!!!」
「こわっ」
斬撃よりも、彼の言動の方がもっと怖い。
観客に子供もいるけど、これ、見せていいのかな……?
……なんて。
そんなどうでもいいことを考えられるくらい、僕は余裕があった。
ブラッドの動きは速い。
斬撃も正確で、踊るように連撃が繋がっていく。
ただ、脅威というほどじゃない。
刃の軌道をしっかりと見極めることができて。
また、予想することも簡単だ。
問題なく対処できる。
「ここだ!」
「なっ……!?」
ブラッドの攻撃を避け続けて……
隙を見つけると同時に、剣を振り、彼の短剣を弾き飛ばす。
ブラッドは宙に舞う短剣を視線で追いかけた。
しかし、それは大きな隙となる。
ほんのわずかな間だけど、彼の意識が逸れた。
そのチャンスを逃すことなく、今度はこちらから突撃。
勢いのまま体当たりをして、ブラッドを地面に転がした。
その上で、眼前に剣を突きつける。
「終わりだよ」
「ぐっ……ま、負けだ……」
ブラッドは悔しそうにしつつも、ここから逆転する方法を見出すことはできなかった様子で、そっと両手を上げるのだった。




