456話 やれるだけやる
夜。
なかなか眠ることができなくて散歩に出る。
ソラスフィールの夜は静かだ。
ただ、剣術大会が開催中ということもあり、観光客のために明かりが増やされているらしい。
夜の闇に困ることはなくて、落ち着いて散歩をすることができる。
とはいえ、もう遅い時間。
人は見かけなくて、僕一人だ。
「なにしてんの?」
訂正。
僕だけじゃなくて、妖精もいた。
「リコリス、どうしてここに?」
「フェイトを見かけたから、なんとなくよ。べ、別にあんたのことを心配しているわけじゃないんだからね!?」
「なにそれ?」
「最近流行りのツンデレ、っていうらしいわ。びゅーてぃほーでわんだほーなリコリスちゃんの魅力が増した? 増した?」
どちらかというとマイナスだけど、それは口にしないでおいた。
「で、こんなところでぼーっとして、どうしたわけ? なにか悩みがあるなら、この天才スーパーミラクルクルクルアドバイザー、リコリスちゃんに相談しなさい」
「なんか、そこはかとなく不安になる肩書だね」
リコリスのこういう台詞、即興で思いついているのかな?
だとしたら彼女は妙な方向に天才なのかもしれない。
「えっと……」
せっかくなので話をしてみることにした。
「僕達、剣術大会の予選を突破して、本戦に出場することになったよね?」
「そうね」
「今のところだけど、他に強そうな人はいない。いや、もちろんいるんだけど、ソフィアやレナには届かないと思う」
「ふふんっ」
なんで、そこでリコリスがドヤ顔に?
「そうなると、みんな、勝ち進む可能性が高いわけで……で、僕もうまく勝ち上がることができたら、いずれ、二人と戦うことになると思うんだ」
「そうね」
「その時、僕はどうなるのかなあ、って考えていたんだ」
「仲間なんだから、どっちが勝ってもいいじゃない。適当に戦って、より勝ち残る可能性が高い方に勝利を譲ればいいわ」
「さらっとゲスいことを言うね」
それはイカサマみたいなものだ。
「そうじゃなくて……」
たぶん、剣術大会の本戦で、僕はソフィアかレナ。
あるいはその両方と戦うことになる。
「そうなった時、僕は、どこまで戦えるのかな……って」
「そんなことを気にしていたの? 敵対してるわけじゃないし、勝ち負けなんてどうでもいいじゃない」
「……よくないよ」
元奴隷で。
今は冒険者。
そして……剣士だ。
それなりに強くなったという自負はある。
ただ、それがソフィアやレナの領域に達しているのか。
彼女達に届いているのか、そこはわからない。
今回の大会は、それを試すための絶好の機会だ。
「フェイト、あんた……もしかして、二人と戦うことになるかもしれないことを喜んでいるの?」
「うん」
夜空に向けて手を伸ばす。
星は遥か彼方。
でも、今の僕なら、がんばれば手が届くかもしれない。
「自分の力を試してみたいって、そう思うんだ。ソフィアは剣の師匠だから、なおさら」
「はー……なんか、熱血してるわね」
「おかしいかな?」
「いいんじゃない? そういうの、よくわからないけど」
リコリスはにっこりと笑う。
「今のフェイト、かっこいいわよ」




