452話 剣術大会
「剣術大会に出場してくれないかな?」
翌朝。
朝食の席で、ライラがそんなことを言う。
「突然だね……」
「いやー、色々と調べたんだけどね? 聖獣と聖域に関しては、普通の図書館で調べるのはちょっと難しいかなー、って限界を感じていたのさ」
「普通の?」
普通じゃない図書館があるのだろうか?
そんな僕の疑問を読んだ様子で、ライラが言葉を続ける。
「ソラスフィールが管理する、特別な図書館があるんだよ。零番図書館、っていうところなんだけどね」
「なんか、かっこいいね」
「そう……ですか?」
「男の子は、ちょっと変わった名前に惹かれやすいからねー。ボクならわかるよ、フェイトの一番の理解者だからね♪」
「わ、私もわかります!」
ソフィアとレナがちょっとしたことで競おうとするのも慣れてきた。
「零番図書館は、特別な本が収められているんだ。禁忌と言われた魔導書とか、歴史の闇に葬られた資料とか。そういうものが収められているから、一般人は立ち入り禁止なんだよね」
「そのような図書館を作り、なんの意味があるんですか?」
「図書館というか、保管庫っていう意味合いが強いかな? 外で流通させるにはあまりにも危ないもの。だから、厳重に管理して外部へ流れることを防ぐ、っていう感じだね」
「なるほど」
図書館って考えるよりは、金庫って考えたほうがいいのかな?
ライラが言うように、時に、知識や記録はとんでもない武器となる。
例えば、とある国の王様に隠し子がいた、なんて資料があったとする。
それが公になれば、下手をすれば後継者争いが勃発して、国を二つに割る内紛が発生するかもしれない。
そういうデメリットを考えると、管理するのは必然と言えた。
「でもさー、そのへんてこ図書館がどうかしたの? あたしら、関係なさそうなんだけど」
リコリスが、はちみつをすくったスプーンを舐めつつ、小首を傾げた。
彼女、時折、考えるのを放棄するんだよね。
「聖獣の情報って、普通の図書館にはないよね? あれだけ調べても、伝説のおとぎ話、ってことくらいしかわからないんだから」
「えっと……それで?」
リコリスははちみつを舐めつつ、再び小首を傾げた。
うん。
なんで今のでわからないんだろう?
「零番図書館に行けば、聖獣の情報が手に入るかもしれない、っていうこと」
「あぁ、なるほど!」
「……ねぇ、この妖精、大丈夫?」
「……私も、時々、ちょっと心配になります」
「ま、そういうわけだから、剣術大会に出場してみたらどうだい? って、提案をさせてもらったわけさ」
「そこの話の繋がりは、僕もちょっとわからないんだけど……」
「おっと、説明不足だったね。ごめんごめん」
こほんを咳払いをして、ライラが改めて話をする。
「剣術大会は、ソラスフィールを守るための猛者を探すためのものでもあるんだけど、娯楽的な要素も多いんだよ。観光業は大事だからね。大会で外部から人を招いて、お金を落としていってもらう、っていう」
「ちゃっかりしてるわねー」
「人間はしたたかなものさ」
呆れるリコリスに、ライラは不敵に笑う。
「ただ、出場者にメリットがないと、誰も大会に出てくれないだろう? だから、賞金や特別な賞品が用意されているのさ」
「特別な賞品?」
「可能な範囲ではあるけれど、なんでも望みを一つ、叶えてもらえる」
「……なるほど」
ライラの言いたいことを理解した。
一方、リコリスは「ほへ?」という顔をしている。
「つまり、こういうことですよ」
「ボク達が剣術大会に出場して、街の守護者っていうところは辞退しつつ、賞金はもらう」
「そして、特別な賞品で、零番図書館に入ることを許可してもらう……ですね」
「おぉ、なるほど!」
理解してくれた様子で、リコリスは納得顔で頷いた。
ちなみに、アイシャはごはんに夢中で、はぐはぐと口をいっぱいにしてパンを食べていた。
スノウとマシュマロも似たようなものだ。
それぞれ尻尾をぶんぶんと振っていて、宿の食事を気に入ったことが理解できる。
かわいい。
「でも、そういうのってアリなの? 守護者になるのを放棄するのに、賞品だけもらうって」
「問題ないよ。そういう人は、わりと多いからね。半数くらいはそんなところさ。街もそれを見越した上で、募集をかけているんだよ。守護者は欲しいけれど、毎年補充しなければいけないほど、人に困ってはいないからね」
「なるほど」
それなら問題はないのかな?
ただ、別の問題が浮上する。
剣術大会に出場して優勝できるのか? という問題だ。
僕はともかく……
ソフィアやレナがいる。
二人を相手に勝利を掴むことができる人はほとんどいないと思う。
ただ、世の中、ゼノアスみたいな思わぬ強敵が潜んでいる。
そんな相手が出てきたら厳しいだろう。
さて、どうしようか?




