451話 本当の幸せは?
夜。
宿の外に出て、夜風を浴びつつ空を見上げる。
見上げた空は深い闇に包まれていた。
ただ、それだけじゃなくて、点々と星が輝いている。
この辺りは空が暗い。
ソフィアの故郷のリーフランドでは、一面の星空が見えるんだけどな。
「フェイト」
振り返るとソフィアがいた。
「眠れないのですか?」
「うん、ちょっと考え事をしてて」
「スノウとマシュマロのことですか?」
「どうしてわかるの?」
「好きな人のことですからね。大体のことはわかりますよ」
「そ、そうなんだ……」
さらっと好きな人と言われてしまい、ちょっと照れた。
「聖獣達が暮らす聖域……本当にあると思う?」
「どうでしょうね。私は研究者ではないので断言はできませんが……でも、色々なところに情報が残っているのなら、本当にあるのかもしれませんね」
「そうだよね……」
聖域が実在すると仮定して。
さらに、そこにたどり着くことができたと仮定して。
「……スノウとマシュマロを返さないとだよね」
聖域こそが、聖獣の本来いる場所。
そうだとしたら、僕達と一緒にいない方がいい。
あるべきところに返すべきだ。
でも……
迷いを覚えている僕がいた。
スノウは長く一緒にいて、家族のように思っている。
マシュマロは出会って間もないけど、でも、離れたくないと思っている。
一緒の時間を過ごせば、きっと、スノウと同じくらい仲良くなれると思うんだ。
それなのに、絆を手放してしまうなんて……
「ソフィア」
「はい」
「どうすることが一番なのかな?」
「わかりません」
ソフィアは僕の隣に立ち、同じく夜空を見上げた。
「この夜空のように、聖域が綺麗なところだとしたら……スノウとマシュマロは帰った方がいいのかもしれませんね」
「うん、そうだね」
黎明の同盟とか。
先の街で起きた事件とか。
聖獣を狙う人は多い。
危険に巻き込まれるぐらいなら……と思う。
でも、一緒にいたいという気持ちもあって……
なかなか心の整理がつかない。
「一緒に考えましょう」
ソフィアが僕の手を握る。
その手は温かくて。
どこか優しくて。
「答え、見つかるかな?」
「フェイトなら大丈夫ですよ」
「そうかな?」
「そうですよ」
「……」
「……」
自然と言葉が減り、沈黙が訪れる。
でも、嫌な沈黙じゃない。
ふんわりとした空気で、僕達を優しく包んでくれるかのようだ。
もう一度、夜空を見上げる。
輝く星を見ていると、自然と心が定まる。
もしかしたら、聖域は、あの星のようにすごく遠いところにあるのかもしれない。
とても綺麗だけど、簡単に行けるようなところじゃないかもしれない。
そうだとしても。
スノウとマシュマロが望むのなら、きちんと返してあげよう。
なによりもまず、二人の気持ちを尊重したい。
僕達のことは後回しだ。
「フェイト」
「うん」
「スノウとマシュマロのために、がんばりましょうね」
「うん」
そっと、ソフィアの手を握り返した。




