449話 研究者の性
「おぉ! おぉおおおっ、おおおおおおおおーーーー!!!!」
ライラを宿に連れていき……
アイシャとマシュマロとスノウと対面させると、ものすごい勢いで喜ばれた。
「久しぶりだね、獣人ちゃん! 元気にしていたかい? そして、この子達が聖獣! せーーーいじゅうーーー!!! 素晴らしい! なんて素晴らしい!!! 今日、この日を記念日にしよう! このドキドキ、わくわく、喜びを皆で分かち合いたい!!!」
ライラは、文字通りぐるぐる回りながら喜んでいる。
歓喜、という言葉がぴったりだ。
「……フェイト」
「……うん、ごめんなさい」
やっぱり連れてこない方がよかったかもしれない。
ソフィアのジト目が痛い。
「とりあえず、こっちへ」
アイシャ達はレナとリコリスに任せて、僕とソフィアは、ライラを連れて宿の一階へ。
食堂になっているそこで、それぞれ飲み物を頼む。
「うーん、のんびりお茶している場合じゃないんだけどな? これから、徹底的にみっちりがっちりとあの子達を研究して……」
「ダメ」
「なんで!?」
「今のライラに預けるのはちょっと怖いよ」
「なので、不許可です。あと、条件を追加させていただきますね。あの子達の同意を得ないとダメです」
「そ、そんなぁ……伝説の聖獣を前にして、こんな酷いことを……」
ガチ泣きしていた。
頭が痛い。
ライラにとって、獣人や聖獣の研究は生涯のテーマだろう。
それが達成されるかもしれないというのだから、その興奮はわからないでもないけど……
さすがにちょっと……ねえ?
少しは協力してもいいけど、せめて、もうちょっと落ち着いてほしい。
「もう少し落ち着いてください。今、勢いに任せて無茶をするよりも、落ち着いて冷静に物事を観察できる時に研究をした方がいいでしょう?」
「ふむ、それは確かに」
「そういう時なら、多少の協力はしますから。もちろん、先の約束は守ってもらいますが」
「うーん……そうだね。わかったよ。迷惑かけて申しわけない」
ライラは、ぺこりと頭を下げた。
基本、良い人なんだよな。
でも、とても研究熱心だから、時々、我を忘れて暴走してしまう。
……あれ?
やっぱり厄介な人?
「マシュマロについて知っていることはないかな? あったら教えてほしい」
「そうだねえ……私も聖獣を見るのは初めてだから断言はできないけど、あの子もまた、聖獣だと思うよ?」
「スノウとぜんぜん違うのに?」
「今は絶滅してしまったけれど、昔は、聖獣もたくさんの種類がいたんだよ。ほら。猫や犬に色々な種類がいるのと同じ感じで」
そう言われると、なんか納得してしまう。
聖獣=スノウのような狼タイプ、って限らないか。
猫型の聖獣がいてもおかしくはない。
「なら、そこらで生き延びていた理由とかは?」
「それは、さっぱり。普通に考えてありえないんだけど……うーん。そもそも聖獣は、過去の人間の愚かな行いで消えてしまった。実は生き延びていた、っていう可能性はあるけど、今まで誰にも見つからなかったのは謎だね。しかも、話を聞く限り特別なところに隠れていた様子ではないし」
「運がよかった……っていう話じゃないよね」
「ただ一つ、これを説明できる説があるんだよ」
ライラはニヤリと不敵に笑う。
「聖域」
「聖域?」
「聖獣達が暮らしているという、特別な場所のことさ。そこは天の国のようの穏やかで、色鮮やかな花が咲いていて、常に温かな気候で満たされているという」
「そんなところが……」
「実証はされてなくて、噂程度のレベルだけどね。でも、そういう話があることは確かさ」
「なるほど……その聖域があるとしたら、マシュマロは、なにかの弾みでそこからやってきた、と考えられるわけですね?」
「聖域自体が本当にあるかわからないから、仮説に仮説を重ねている状態だけどね」
さっき、ものすごく興奮された時は困ったけど……
でも、やっぱりライラに協力を求めてよかった。
僕達の知らない情報が次々に出てくる。
「他になにか知っていることはありませんか?」
「んー……たぶんだけど、あのマシュマロって子は聖獣の子供だね」
「子供?」
「ほら、スノウって子と同じだよ。とてもじゃないけど、成獣には見えない。あ、今のだじゃれじゃないからね?」
「子供……なのかな? 確かに小さいけど……」
「でも、猫と考えると普通のサイズですよね」
「サイズはあまり関係ないよ。それよりも、持っている力だね。力を見る限り、まだまだ子供だよ」
「そんなのわかるの?」
「ふっふっふ、私レベルの聖獣オタクになると、見ただけで大体はわかるのさ!」
聖獣オタクって……
なんか嫌な響きだなあ。
「まあ、私が知るところはこれくらいかな? ただ、図書館などで調べれば、追加の情報は色々と出てくると思うよ」
「そこも協力してくれると嬉しいんだけど……」
「もちろんさ! こんな素敵な機会、見逃すわけがないじゃないか。そして、じっくりねっとりたっぷりとスノウちゃんとマシュマロちゃんの研究を……ふひっ、ひふふふ」
……大丈夫かな、これ?
ソフィアと顔を見合わせて、思わずため息をこぼしてしまうのだった。




