442話 わずかな心当たり
「ところで……」
気まずいから、という理由ではなくて、話を変える。
前々からレナに聞いてみたいことがあったんだ。
「レナは、マシュマロについて詳しいことを知らない?」
「うーん……前に話したこと以上のことは知らないや。ごめんね?」
「ううん、気にしないで」
やっぱりダメか。
黎明の同盟にいたレナなら、と思ったんだけど。
「ただ……」
レナの話はそこで終わりじゃなかった。
まだ続きがあるみたいだ。
「眉唾ものの話で、証拠も根拠もまったくないんだけど……」
「うん」
「聖獣には色々な種類がいた、っていう説を唱えている人がいたよ」
「え? それは……」
「こういう資料が残されているから、こういうことに違いない、っていうわけじゃないんだ。ただ、推測に推測を重ねて、たぶん、他にもいるんじゃないか? っていうだけ。だから、証拠も根拠もなにもないの」
「そうなんだ……でも、その話、詳しく聞いてもいい?」
「もちろん♪」
レナ曰く……
その説を唱えていた人は、黎明の同盟の中で、聖獣の研究をしている人だったらしい。
よくいるような研究者で、研究のこと以外はなにも考えていない。
結果も気にしない。
ただ、己の知的好奇心を満たして、証明したいだけ。
厄介で面倒な人ではあるものの、そういう人に限り、ずば抜けた才能を持つものだ。
そして、その人は、複数の種類の聖獣が存在した、と提唱していたらしい。
「なんか難しい話で、理由とかは覚えていないんだけどね。ただ、やたら熱心に説いていたよ? 聖獣は複数の種類が存在して、それぞれが世界と人間を支えているんだー、って」
「支えている、って……どういうことだろう?」
「さあ? ボクもさっぱりわかんない。そもそも、真面目に話を聞いていなかったからねー」
てへぺろ、とレナが笑う。
「でも、こんなことになるなら、もっとちゃんと話を聞いておけばよかったかな」
「その人は?」
「うーん……わかんない♪」
「え」
「ある日、資料を探しに行く、って言ったきり、どこかに消えちゃったんだよね。一応、黎明の同盟も探したみたいだけど見つからなくて……そこまで重要なポジションにいなかったから、そのまま放置されちゃったんだ」
「そっか……」
残念。
もしも、その人と会うことができたなら、マシュマロのことがなにかわかったかもしれないのに。
「案外、ソラスフィールにいるかもね。あそこ、世界中の研究者が集まる街みたいだから」
「そこで会えたとしたら、なんか、運命を感じるかもね」
と、冗談めいて言ってみるのだけど……
「運命ならボクに感じてほしいな」
レナはちょっと不満そうにしつつ、ぐいっと距離を寄せてきた。
「れ、レナ……?」
「色々話したから、ご褒美がほしいなー」
「えっと……そんなことを言われても」
「ダメ?」
「そ、そもそも、なにが欲しいの?」
「フェイト♪」
レナはにっこりと笑い……
そして、そっと自分の衣服に手をかけた。
「れ、レナ!?」
「しー。大きな声を出したら、みんなが起きちゃうよ」
「だ、だからって……」
「ね。せっかくだから、えっちなことしよ? 大丈夫。二人きりだから、誰にもバレないよ」
「そ、そういう問題じゃなくて……」
「フェイトがいけないんだからね? なかなかボクの方を見てくれないから、ボクも、ちょっと強引にいくことにしたんだ」
際どい格好をしたレナが、さらに距離を詰めてくる。
なんていうか……
ヘビに睨まれたカエルのようだ。
動くことができなくて、でも、レナから目を離すことができない。
「……フェイト……」
「えっと、その……」
「気持ちよくて、えっちなこと……しよ?」
とろけるように甘い声。
もしかしたら、飲み込まれていたかもしれない。
でも、今は、それだけはありえなくて……
「あの……レナ?」
「なぁに?」
「一つ、言っておきたいんだけど……後ろ、見た方がいいよ」
「後ろ?」
言われた通り、レナが振り返る。
その視線の先には……ソフィアがいた。
「あ」
「……」
やばい、という感じで、小さく呟いたレナ。
対するソフィアは無言を貫いている。
そして、ぽつりと一言。
「言い残すことは?」
「えっと……てへぺろ♪」
……その後、なにが起きたのか?
あまりに苛烈で過酷で強烈だったため、詳細を記すのは控えておきたい。
ただ、一言。
女性は恐ろしい。




