439話 夜の散歩
夜。
部屋の明かりを消して、みんなで布団を並べて寝る。
「……」
布団に入ったものの、目が冴えて、なかなか眠ることができない。
こんな豪華な宿に泊まるのは初めてだから、緊張しているのかな?
「……ちょっと夜風に当たってこよう」
みんなを起こさないように注意して、部屋の外に出た。
そのまま中庭に移動して、夜空に輝く月を見上げる。
「綺麗だなあ」
「そうですね」
「うわっ」
突然聞こえてきた声に、僕は小さく飛び上がってしまう。
慌てて振り返ると、ソフィアがいた。
「い、いつの間に……?」
「フェイトが部屋を出ていくのが見えたので、こっそりと後をつけてきました」
「それなら声をかけて……気配を消してついてこられたら、驚くよ」
「ごめんなさい。もしかしたら逢引なのかな、って」
「そ、そんなことしないよ! 僕は……」
「僕は?」
「えっと……ソフィアだけだから。好きなのは、ソフィアだから」
「……」
夜でもはっきりとわかるくらい、ソフィアが赤くなる。
「この流れは想定していましたけど、いざとなると照れてしまいますね……」
「なら、やめて」
「ふふ、嫌です」
ソフィアって、たまに意地悪になるんだよな。
レナみたいだ、って言ったら怒るかな?
「眠れないんですか?」
「うん。あ、でも、深い理由はないよ? あんな宿に泊まるのは初めてだから、ちょっと緊張しているっぽい」
「ちょっと気持ちはわかります。ああいうところは、私も落ち着かないです」
「だよね。屋根と寝れるところがあれば十分」
「それはちょっと……」
「あれ?」
奴隷だった頃は、むき出しの岩の上で寝ることなんてざらだったから、屋根があるだけでも天国のように思える。
なんて……
けっこう昔のことを思い出して、比べてしまった。
こういうの久しぶりだな。
「ねえ、フェイト」
「なに?」
「手を繋いでもいいですか?」
「もちろん」
ソフィアと手を繋いだ。
温かくて、柔らかくて……
ちょっとドキドキしてしまう。
そのまま二人で夜の散歩をする。
「そういえば」
ある程度歩いたところで、ソフィアが思い出したように言う。
「知っていますか?」
「なにを?」
「……今、私達、二人だけなんですよ」
言われて気がついた。
人気のない夜の街。
海が近いため、波が寄せては返す音が聞こえてくる。
それくらい静かで……
僕達以外、誰もいない。
「今なら、なにをしてもバレないですよ?」
「え? いや、それは……」
「ふふ、なにを想像したんですか?」
「……な、なにも」
ソフィアが変なことを言うから、変な想像をしてしまった。
でも、そんなこと言えるはずもなく、適当にごまかしてしまう。
そんな僕を見て、ソフィアはくすくすと小さく笑う。
やっぱり小悪魔みたいだ。
「なにをしてもバレないので……」
ソフィアが距離を詰めてきて……
「こんなことをしても、大丈夫なんですよ? ……んっ」
「っ!?」
そっと、頬に柔らかい感触が触れた。
甘い刺激。
それはソフィアの唇で……
「ふふ、しちゃいました」
「しちゃいました、って……うぅ。ソフィア、今日は大胆すぎるんだけど……」
「こうでもしないと、フェイトはなかなか前に出てくれないので」
返す言葉もありません。
「それで……フェイトは、それだけですか? なにかお返しをくれないのですか?」
「……なら」
僕はソフィアを抱き寄せて、そっとお返しをするのだった。