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44話 決戦前夜

 スタンピードの予兆を見つけることは、そんなに難しいことじゃない。

 ありえないほどの数の魔物が集まり、巨大な群れを成す。

 そのようなものを、普通なら見逃すはずがない。


 ただ、例外はある。


 例えば、ダンジョンの内部。

 例えば、人が赴かない奥地。


 そんな場所で魔物が群れを成した場合、どうしても発見が遅れてしまう。

 今回もそんなケースだったらしく、発見した時は、すでに相当数の魔物が群れを成していて……

 弾ける寸前。

 スタンピード発生まで、数日に迫っていたという。


 それから、慌てて準備をして……

 残り一日というところで、僕達に声がかかったらしい。


「人間って、けっこうめんどくさいのね」


 夜。

 迎撃準備に避難準備。

 街中がてんやわんやの状態の中、リコリスはマイペースにそんなことを言う。


「魔物が迫っているなら、逃げればいいじゃない。なんで、そうしないわけ?」

「簡単に街を捨てることはできないからね。うまく逃げられたとしても、生活の基盤になる街がないと、やっぱり死んじゃうよ」

「ふーん、やっぱり人間って面倒なのね。あたしのような妖精なら、街なんてなくても、どこででも生きていけるわよ」


 妖精の生態って、どうなっているんだろう?

 ふと興味を覚えるのだけど……でも、今はそんなことを話している場合じゃないか。


「むう」


 明日、いきなり決戦。

 活力をつけるために、宿でたくさんの食事を食べているのだけど、ソフィアの表情は優れない。


「どうしたの?」

「いえ……作戦を聞いて、やはり不安になってしまいまして」

「二面作戦か」


 スタンピードは、有象無象の魔物の群れと、連中の中心となる女王が存在する。

 魔物の群れを倒すだけでは、スタンピードを制圧することはできない。

 女王を討伐して、ようやく制圧することができる。


 その女王を討伐する役目を与えられたのは……


「まさか、フェイトが女王討伐の任に選ばれてしまうなんて」


 そう、僕だったりする。


 女王は他の魔物を従えているため、相応の力を持つ。

 剣聖であるソフィアが相手をするのが適任なのだけど……

 ただ、今回は準備時間が圧倒的に足りないということで、人が少ない。


 女王を倒すことができても、それまでの間に街が蹂躙されては意味がない。

 ソフィアは防衛のため、その他の魔物を担当することに。


 そして僕は、ソフィアに剣を教えられていることと、シグルドを倒した功績を認められて、女王の討伐を任された。


「スタンピードの核となる女王は、他の魔物よりも強力……ですが、津波のように押し寄せてくる魔物の群れの相手も危険で……うぅ、私はどうすれば?」


 ソフィアがものすごく悩ましい顔をしていた。

 僕のことを心配してくれているのだろう。


 正直なところ、僕に女王の相手が務まるかわからない。

 他に適任者がいそうな気がするのだけど……


 でも、今は弱気は封印。

 後ろ向きな発言をしたら、ソフィアに余計な心配をかけてしまう。


「大丈夫だよ」

「フェイト?」

「僕は、ちゃんと女王を倒してみせる」

「ですが、女王はとても危険で……」

「それでも大丈夫。だって、ソフィアに剣を教えてもらったし、それに、リコリスからもらった雪水晶の剣がある。これは、ソフィアとリコリスの絆のようなものだから……僕は負けないよ」

「……そうですね。フェイトなら、きっと大丈夫ですね」

「そーそー、いざとなったら、あたしがなんとかしてあげる」

「ちょっと待ってください。もしかして、リコリスもついていくつもりですか?」

「そうだけど?」

「ダメですよ、そんなことは!」


 なぜか、ソフィアが猛反対する。


「本当は私が一緒に行きたいのに、ぐぐっと我慢して……それなのに、リコリスが一緒するなんてずるいです。反則です」

「反則って、あんた……」


 やれやれ、とリコリスが呆れてみせた。

 子供を諭すように言う。


「あんた、強いなら知ってるでしょ? あたしのような妖精は、戦闘能力は低いけど補助に長けているの。色々とサポートできるから、フェイトについていくのは当然じゃない」

「ぐぐぐ……し、しかし」


 ソフィアはとても悔しそうにして……

 ややあって、色々な感情を飲み込んだ様子で、吐息をこぼす。


「……フェイトのこと、しっかりとサポートしてくださいね?」

「ふふんっ、この完璧超絶可憐妖精リコリスちゃんに任せておきなさい! どんな相手だろうが、あたしがフェイトを勝たせてあげる。妖精の加護は伊達じゃないわ」

「うん、頼りにしているよ」

「まっかせなさーい!」


 得意そうに胸を叩いて……

 そして咳き込むリコリスを見て、僕とソフィアは本当に大丈夫なのかな? と、ちょっとだけ不安になるのだった。


 その後、明日に備えて早めに休むことに。

 宿に戻り、ベッドに横になる。


「……」


 ただ、眠気はやってこない。

 明日のことを考えると、どうしても緊張してしまい、すぐに眠ることはできなさそうだ。


 そんな時、扉がノックされた。


「はい?」

「私です」

「ソフィア?」


 扉を開けると、寝間着姿のソフィアが。

 ちょっと……色々な意味で見ることができない。


「ど、どうしたの?」

「その……一言だけ、伝えておきたいことがありまして」

「伝えておきたいこと?」

「はい。その、えっと……」


 ソフィアは意を決したような顔になり、ぎゅうっと、抱きついてきた。


「そ、ソフィア?」

「……」

「えっと、あの……」

「……うん」


 そっと、ソフィアが離れた。

 今のは……?


「その……お守り代わりといいますか、誘惑をしているといいますか、その……そんな感じです」

「え? どういうこと?」

「ですから、その……今、私に抱きしめられてうれしかったですか? どうですか? 正直に答えてください」

「それは……う、うん。うれしかったよ。すごくドキドキした」

「なら……また、してあげてもいいですよ?」

「え?」

「それどころか、その……もっと好きなことを、フェイトが好きにしていいですよ?」

「ええっ!?」

「でも、それはフェイトが女王を倒して、無事に帰ってきたらです。そのご褒美です。だから……」

「……うん。大丈夫。必ず帰ってくるよ」


 抱きしめる代わりに、そっと、ソフィアの手を握るのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] リコリス・・やはり、あの作品の妖精が浮かぶ・・。 もしも枠を超えて出会ったら「〜なのだ〜!」とかそうなったら「ソラ」は「騒がしいです!二人共!」って言いそう・・。レインとカナデ達はその姿に…
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