435話 手を取り合って
「僕は……元々、奴隷だったんだ」
気がついたら、そんな言葉が飛び出していた。
ナナカが不思議そうにこちらを見る。
「でも、ソフィアに助けてもらって、冒険者になることができたんだ」
「それが、いったい……」
「一人でがんばるんじゃなくて、誰かに助けてもらう、っていう選択肢はないのかな?」
「……」
ナナカが目を大きくした。
「がんばることは大事だよ。がんばらないと、なにも始まらないし……でも、なにもかも一人で背負う必要はないんじゃないかな? 周りの誰かに助けてもらってもいいんじゃないかな?」
「それは……しかし、私は……」
「ナナカが難しい立場にいることは理解しているつもりだよ。でも、人がいないわけじゃない。助けてくれる人は、きっといるよ。声をかけて、周りを見ればいい。まずは……そうするべきだったんじゃないのかな?」
「……」
ナナカは声もなくうなだれた。
僕の言葉は彼女に届いただろうか?
少しでも心に響いただろうか?
「私は……がんばっていたつもりで、しかし、がんばれていなかったのですね。一人でから回っていたのですね……」
「そうかもしれないけど、でも、これからは違うでしょ?」
「……え……」
「ナナカならやり直せるよ、きっと。僕が保証する」
「……フェイトさま……」
「だから、また、がんばろう?」
僕は笑顔で手を差し出して……
ナナカは、そっと僕の手を取った。
――――――――――
今回の事件。
他所に通報すれば、ナナカは処罰を免れないだろう。
しかし、逆を言うと通報しなければ、なんてことはない。
あの夜の事。
それ以外の事。
僕達は見て見ぬフリをした。
僕達は被害を受けそうになったけど……
でも、それだけ。
他に事件は起きていない。
ちょっと調べてみたけど、ナナカも無茶はしていないらしく……
他に被害らしい被害はない。
なので、黙っておくことにした。
このまま、ナナカにがんばってもらうことにした。
それは、ある意味で辛いことで……
ナナカにとって罰になるかもしれない。
もしかしたら、また折れてしまうかもしれないけど……
その可能性は限りなく低いと思う。
今のナナカなら、一人で抱え込むことはないと思う。
ちゃんと周りを頼ってくれると思う。
そして、前よりも、もっともっとオーシャンホエールを発展させていくはず。
彼女なら、それだけのことができる。
そう信じていた。
――――――――――
「それにしても……」
あれから、場所を街の宿に移した。
ナナカは、もうなにもしないと思うけど、さすがに、これ以上一緒にいるつもりはない。
かといって、すぐにオーシャンホエールを後にするのもなんなので……
街の宿を利用することにした、というわけだ。
「天才美少女妖精リコリスちゃんでもわからない謎が、まだ残っているのよね」
「リコリスは、天才じゃなくて天災じゃない?」
「なによ、このペタンコ娘!? やるっての!?」
「それボクのこと!?」
がるるる、とリコリスとレナが睨み合う。
それはともかく……
リコリスの言う通り、今回の事件、謎が残る。
「結局、ナナカに聖獣の情報を教えたのは誰なんだろう?」
ナナカに話を聞いてみたら、旅の商人から噂を聞いたと言っていた。
でも、普通の商人が聖獣なんてものを知っているはずがない。
商人に偽装した『何者』か、だろう。
それともう一つ。
「にゃあ……にゃおん」
「わふ、わふ!」
「よしよし」
マシュマロとスノウがアイシャに甘えていた。
二匹はすっかり仲良しだ。
「結局、マシュマロってなんなんだろうね?」
「聖獣みたいですが……しかし、他に聖獣がいたなんていう話、初めて聞きました」
「レナも知らないんだよね?」
「ん? あー、そうだね。その猫っぽいの、初耳。黎明の同盟でも、誰も知らなかったと思うよ」
「うーん……謎だ」
またなにか、大きな事件に巻き込まれているような?
厄介事が舞い込んできたような?
でも、まあ。
「大丈夫だよね」
ソフィアがいる。リコリスがいる。
レナもいる。
だから、大丈夫。
大事な仲間達と一緒なら、どんなことも乗り越えていけると思う。
ずっと。
いつまでも。
ちょっとだけ休憩します。
2週間後くらいに再開予定です。




