433話 心を通わせて
「ナナカ!」
僕は、気がつけば彼女の名前を口にしていた。
彼女と必要以上に争いたくない。
戦いは、もう終わりにしたい。
そう思っていたら、勝手に体が動いた。
前に出る。
もちろん、アイシャ達を背中にかばうのは忘れない。
距離は開いてしまうものの、いざという時、対処はできるはずだ。
「もう止めよう! こんな戦い、意味ないよ!」
「そのようなことはありません! 私には、これしか、これ以外に取る道は……!」
「勝手に決めないで!!!」
「っ!?」
気がつけば、腹の底からの大声が出ていた。
あまりの声量に驚いたらしく、ナナカの動きが止まる。
「ナナカの事情はわからないよ。なにも教えてくれないから、なにもわからないよ。でも……でもさ、一人で抱え込むなんて、止めた方がいいと思うんだ」
「なら、私はどうしろと!?」
「誰かに相談して、頼ればいいじゃない。例えば、僕達とか」
「フェイトさまが私の味方になってくれるという保証は!?」
「ないよ」
そこは誤解のないように、しっかりと言う。
「ナナカが悪いことを企んでいたら、それに協力することはできない。そうじゃなくても、ものすごく大変なことを抱えていたら、力になれるかどうかわからないよ」
「なら……!」
「でもさ、一人でできることなんて限界があるんだ。そのことは理解してよ」
僕は、かつて奴隷だった。
なにもできなくて。
明日に希望はなくて。
でも、ソフィアが助けてくれた。
ううん。
ソフィアが、僕に立ち上がる力をくれた。
一人だったらできなかったことだ。
人は、誰かと一緒にいることで……
繋がって輪になることで、前に進んでいくことができるんだと思う。
「辛かったら、周りにそれを吐き出していいんだ。困っていたら、助けを求めていいんだ。一人で抱え込む必要なんてないよ」
「そのような綺麗事で!」
「そうだよ、綺麗事だよ。でも、そういうことを無視していたら、つまらないじゃないか」
誰かが助けてくれるとは限らない。
逆に、陥れられるかもしれない。
だから、僕の言っていることは綺麗事で、理想論かもしれない。
でも、それが間違いっていうこともないんだ。
正しいこともあるんだ。
「少なくとも」
僕は、そっとナナカに手を差し出した。
「僕はもう、あなたと争いたくないよ」
「……フェイトさま……」
「戦いを止める理由は、それで十分じゃないかな?」
戦えば戦うほど、ナナカが泣いているように見えて……
どれだけ酷いことをしたとしても、これ以上、戦うつもりにはなれなかった。
容赦ない攻撃を仕掛けられたものの。
でも、ナナカなら、もっとうまくやれたんじゃないだろうか?
薬を盛るなりして、もっと早く決着をつけることができたんじゃないだろうか?
それをしなかったのは、ナナカにも迷いがあったのでは……って、思う。
今になって。
戦って、言葉を交わして、ようやくそのことに気づくことができた。
「もうやめよう? 僕は、僕を好きって言ってくれた人を傷つけたくないよ」
「それは……」
「それとも、あの告白は嘘? 本心じゃない?」
「そのような、ことは……」
「なら、やめよう。ナナカの気持ちには応えられないと思うけど……でも、僕は、あなたと友達になりたい」
「……」
ナナカから言葉が消えていく。
同時に、さきほどまであったプレッシャーも消えていく。
ナナカはこちらを見て、ソフィアとレナを見て。
奥のアイシャ達を見て……
最後に、再び僕に視線を戻した。
そして、ゆっくりと手を下ろす。
「フェイトさまにそのようなことを言われたら、私はもう、どうしようもありません。そこまで言わせてしまって、そして、そこまで言ってもらえるなんて……私の負けです」
欲しかった一言を得ることができた。
次回更新、一回だけ休みます。




