429話 最大の敵はすでに目の前に
「くっ……風よ、この者を守りたまえ!」
リコリスの魔法。
風が渦を巻くようにして僕の前に集まる。
それは盾となり、巨大な火球を防いだ。
……でも、ギリギリ。
直撃は避けられたものの、熱が伝わってきた。
それに、衝撃も。
「うわっ!?」
ぐるぐると回転するようにしつつ、落下。
そのまま地面に叩きつけられた。
「いたたた……」
「フェイト、大丈夫!?」
「うん、なんとか」
「……意外と余裕があるわね。高いところから、しかも、勢いをつけて落ちたっていうのに。あたしは、飛べるから問題ないけどさ」
「日頃、ソフィアやレナに鍛えられているからね」
新しい旅を始めてから、合間を見て、ソフィアとレナに稽古をつけてもらっている。
二人の稽古は苛烈だ。
特にレナ。
稽古というか、戦うことを楽しんでいる風があって、いつもヒヤッとしている。
でも、おかげで、だいぶ鍛えられたと思う。
今も「痛い」っていうだけで済んでいるのも、二人のおかげだ。
「今のを防いで、しかも、大したダメージはありませんか……」
ふわっと、風に乗るようにしてナナカが降りてきた。
魔法を使ったのだろう。
「さすがですね」
「それ、僕の台詞だよ。そんな魔法を使えたんだ」
「淑女の嗜みですわ」
そんな嗜み、聞いたことない。
「さあ……おとなしく聖獣を渡してください。そうすれば、これ以上は控えましょう」
「お断りだね」
「即答ですか」
「考えるまでもないからね」
アイシャとスノウは家族だ。
家族を渡すなんて、ありえない。
マシュマロも新しい家族だ。
もちろん、こちらもナナカに渡す選択肢なんてない。
ナナカにも事情があるのかもしれない。
やむにやまれぬ決断なのかもしれない。
でも。
「僕の大事な人達に手を出そうっていうのなら、容赦はしないよ!」
「いっちゃえ、フェイト!」
リコリスの声援を受けつつ、僕は前に出た。
兵士は降りてくるのに手間取っていて、ナナカだけ。
今なら簡単に攻撃が通る。
剣を横にして、刃の腹でナナカを叩こうとして……
ギィンッ!
「えっ」
ナナカに刃が触れようとした瞬間、甲高い音が響いた。
鉄と鉄がぶつかるような音と感触。
服の下に鎧を?
いや、そんな感じはしない。
だとしたら、今のは……
「魔法ね」
肩に乗るリコリスが言う。
「たぶん、常時、防御魔法を自分にかけているんだと思う。あたしの知る防御魔法は、永続なんて無理だし、こんなに強力じゃないんだけど……」
「それなりに研究と研鑽を積んできましたので。妖精さんの知らない魔法を習得していたとしても、不思議ではありませんよ?」
「くーーー、余裕ぶっこいでむかつくわ。フェイト、やっちゃいなさい! いけ!」
「いや。言われなくてもがんばるけどさ……」
ナナカは、思っていた以上の強敵だ。
魔法が使えるお嬢様、っていう認識は捨てた方がいい。
とても強力な魔法を使う敵、と認識しないとダメだ。
僕を好きと言ってくれた。
そんな相手に剣を向けるっていうのは、正直、複雑な気持ちになってしまう。
でも、家族を守らないといけない。
スノウ達を渡すわけにはいかない。
「すぅ……はぁぁぁ。うん。いくよ」
僕は気持ちを切り替えて、改めて剣を握る。