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43話 ギルドマスターの依頼

「まずは……ごめんなさい」


 ギルドマスターは席を立ち、その場で腰を深く折り曲げて、頭を下げる。

 突然の行動に、僕とソフィアは目を丸くした。


「前任者がとんでもないことをしていたみたいで、同じギルドの関係者として、深く謝罪するよ。すみませんでした」

「えっと……」

「特定の冒険者を贔屓するだけじゃなくて、スティアートくんに対する不当な扱いや、その他、諸々の犯罪……とても許されることじゃない。改めて、謝罪をさせてください」


 ストレートに謝罪をされるとは思っていなかったらしく、ソフィアが戸惑うような顔に。


 僕も驚いていた。

 ギルドって、けっこう面子を重視するところがある。

 荒くれ者が多い冒険者をまとめなければいけないから、舐められたら終わり、みたいな考えがあったりする。


 なので、面子が潰れるようなことは、できる限り避ける傾向にあるのだけど……

 でも、クリフは素直に頭を下げた。

 なかなかできることじゃないと思う。


「もちろん、言葉だけの謝罪で納得できないと思うからね。色々と補填をさせてもらうつもりだよ。例えば、馬車を手配したみたいだけど、半分はギルドで負担させてもらうよ」

「いいんですか?」

「もちろん。金で謝罪が成立するとは思っていないけど、ただ、それでも誠意は示さないといけないからね。できる限りのことはしていくつもりだよ。二人からなにか要求があるのなら、できる限り応えていきたいと思う」

「では、シグルドの仲間達を死刑にしてくれませんか?」

「ちょ」


 いきなりの要求に、思わず僕が慌ててしまう。

 ただ、クリフはこうなることを予想していたのか、落ち着いている。


「うーん、ごめん。それは難しいかも。冒険者達は、すでに裁判にかけられて刑が確定しているからね。それを覆すのは難しいかな」

「シグルドは死刑ですが、確か、残りは強制労働奴隷でしたよね?」

「うん。でも、強制労働奴隷なんて長生きしないし苦しいだけだから、ある意味で、死刑よりも辛いかな。だから、それで満足してくれないかな?」

「まあ……いいでしょう」

「ごめんね、いきなり要求に応えられなくて。でも、できる限りの謝罪はしたいと思っているのは本当のこと。だから、いつでもなんでも言ってほしい」


 ちょんちょん、と隣に座るソフィアを肘で軽く突いて、小声で尋ねる。


「……いい人かな?」

「……まだ断定はできませんが、少しは評価してもいいかもしれませんね」


 クリフがウソをついているようには見えないし、演技というわけでもなさそう。

 これで心に黒い感情を秘めているとしたら、相当な役者だ。


 ソフィアが言うように、信頼を寄せることは危険なのかもしれないけど……

 ひとまず、多少は信じてもよさそうだ。


「謝罪については、ひとまず了解。なにかあれば、ギルドマスターを頼りにさせてもらうね」

「クリフでいいよ」

「うん、クリフ。それで……依頼っていうのは?」

「実は、ちょっと困ったことが起きているんだ」

「どんなこと?」

「いやー、実は、スタンピードが発生しそうなんだよね」

「「ごほっ」」


 気楽に言うクリフだけど、とんでもなく重要なことを口にしているわけで……

 僕とソフィアは、思わずむせてしまう。


「スタンピードって……なにかの要因で魔物が大量発生して、一気に押し寄せてくるヤツだよね?」

「ええ……もしも本当ならば、街一つ、簡単に滅びますね。そのように呑気にしている場合ではないと思うのですが」

「でもさ、慌てても仕方ないでしょ? それよりも、落ち着いて対策を考えた方がいいと思うんだよね」

「それはそうだけど……」

「落ち着きすぎでは……?」


 この人、小物なのか大物なのか、とても判断に困る。

 あるいは、とんでもないバカなのか。


 うーん。

 新しいギルドマスターは、どうにもわからない人だ。


「今、ありったけの冒険者を集めているところなんだ。もちろん、憲兵隊とも連携をとっているよ。そんなわけで、できればでいいんだけど、二人にも協力してくれたらなあ……っていう話なんだよね」

「ただの協力要請なのですか? ギルドマスターならば、強制すればいいのでは?」

「スタンピードの対処なんて、下手すれば死んじゃうからねー。さすがに、そこまで強制はできないよ」

「ふむ?」


 クリフの真偽を見定めるかのように、ソフィアがじっと見つめた。

 かなり鋭い視線で、ウソをついていたり悪いことを考えていたら、冷や汗を流してしまいそうなものだけど……

 クリフは変わらず、のほほんとしたままだ。


 本当によくわからない人だ。


「私達が断れば?」

「困っちゃうかな。アスカルトさんの力はすごく頼りにしているから、作戦が大幅に狂っちゃいそう」

「私は、フェイトを危険な目に遭わせることには反対なのですが……」


 ソフィアがちらりとこちらを見た。

 判断は任せます、という感じだ。


「やるよ」


 この際、クリフがなにか企んでいるかも? という懸念は無視する。


 スタンピードが現実のもので……

 この街に被害が出ようとしているのなら、それを放っておくことはできない。


 ここは故郷というわけじゃないし、特に思い入れがあるわけでもない。

 それでも、見捨てることはできない。

 できることがあるのなら、やれるだけのことをやりたい。


「冒険者は人のためになることが義務というか使命というか、その在り方だと思うから」

「なら、私も参加しますね」

「うん。二人でがんばろうね」


 スタンピードなんて経験したことがないし、冒険者初心者にしては無茶苦茶な難易度だと思うけど……

 でも、ソフィアが一緒なら、なんでもできるような気がした。


「いやー、よかったよかった。もしも断られたら、どうしようかと思っていたよ」

「……その時は、フェイトを人質にして、私に言うことを無理矢理聞かせていましたか?」

「まさか、そんなことはしないって。っていうか、そんな発想が出てくるっていうことは、前任者はけっこう無茶苦茶なことを?」

「けっこう、どころではありませんよ」


 前任者が退陣させられて、それから少し後に聞いたのだけど……

 シグルド達をいいように使い、自分を正義と信じて疑わず、手段を選ばない。

 なかなか無茶をやっていたらしい。


 そんな前任者に強い敵意を持っているらしく、ソフィアの声は尖ったものだ。


「あー……これは、僕とキミ達との間に情報の差があるかな? 一通りのことは全部教えてくれ、って言ったんだけど……まったく、ギルドの隠蔽体質にも困ったものだね」

「っ」


 瞬間、わずかにではあるものの、クリフから怒気がこぼれた。

 思わず緊張してしまうほど鋭いもので……

 この人、見た目通りのヘラヘラした人じゃないのかもしれない。


「ごめんね、スティアートくん。アスカルトさん。前任者については、改めて話をした方がよさそうだ。情けない話だけど情報が揃っていないみたいで……さっき話した賠償じゃあ、たぶん、ぜんぜん足りないよね。僕としては本当に申しわけないと思っていて、できれば、謝罪の機会を与えてほしい。だから、今度、改めて話をしたいんだけど、どうかな?」

「えっと……うん。それは別にいいけど」

「よかった、ありがとう。スティアートくんは優しいね。って、その優しさに付け入るような真似をしちゃダメか。うん、大丈夫。謝罪と賠償はしっかりとさせてもらうから。あと、今後、こんなことは起こさせないと誓うよ」


 そう言うクリフは、ちょっとした迫力があった。

 もしかして、この人、ギルドではけっこう偉いのだろうか?


「話が逸れているよ?」

「あ、すまないね。でも、こっちの話も大事だったから。えっと……それじゃあ話を戻すけど、スタンピードについての話だ。改めて確認になるけど、スティアートくんもアスカルトさんも、参加してくれるってことでいいのかな?」

「うん」

「はい」

「よかった、助かるよ。これでなんとかなりそうだ」


 僕はともかく、剣聖であるソフィアのことはとても頼りにしていたのだろう。

 安心した様子で、クリフは小さな笑みを浮かべる。


 僕も頼りにされるように、がんばらないといけないな。


「ところで、魔物の襲来はいつ頃なんですか?」

「あ、そうそう。大事なところを言い忘れるところだった。魔物の襲来は、明日だから」

「「明日っ!?」」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 忙しい!技を覚える暇も無し❗魔法も使いたいですね!
[良い点] 少し先も読んで思った、クリフの印象…性格は○バン先生みたいですね!…メガネをかけていて、一見のんきで緊張感無さそうですが…能ある鷹は爪を隠す!を体現してますね!まぁ彼は何でもスゴくできる勇…
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