426話 実力行使と開き直り
「……レナ」
「うん、わかっているよ」
部屋で待機していたソフィアは、レナに目で合図を送る。
それから、ベッドで寝ていたアイシャを抱っこする。
「スノウとマシュマロもこちらへ」
ソフィアが手招きをすると、二匹は素直に彼女の足元に寄る。
賢い子達だ。
一方で、レナは壁に立てかけておいたティルフィングを手に取る。
腰にかけて、いつでも抜けるように柄に手を伸ばした。
その直後だった。
扉が勢いよく開かれて、武装した兵士が複数、姿を見せる。
「はいはーい、君達はなにかな? レディの部屋にいきなり……おっと」
レナが軽口を叩こうとするものの、兵士はそれを無視して、いきなり斬りかかってきた。
無論、そんな雑な攻撃に当たるレナではない。
ひらりと、宙を飛ぶようにして回避。
後ろのベッドに着地する。
「いきなりなにするのさ、もー」
「殺されたくなければ、そこの獣達を渡せ」
兵士は冷たい声で告げる。
その視線は、スノウとマシュマロ。
それと、アイシャに向けられていた。
そのことを理解したソフィアは、静かな怒気……というか、殺気を放つ。
「うちの大事な娘達に、なにか用ですか?」
「答える必要はない。お前達は、獣達を渡せばいい。金もやる。でなければ……殺す」
「そうですか、わかりました」
ソフィアはにっこりと笑い、
「手加減はいらないみたいですね」
「なっ……!?」
ソフィアの姿が消える。
いや。
視認できないほどの超高速で駆けたのだ。
同時に抜剣。
すれ違いざまに、三人の兵士を薙ぐ。
一応、剣の腹で叩くようにして、斬ってはいない。
しかし、兵士からしたら、鉄の棒で殴りつけられたようなもの。
鎧が砕け、骨も砕ける。
三人の兵士達は、苦悶の声をあげて崩れ落ちた。
「き、貴様!? これは領主さまの命令だぞ。それに逆らうというのか!?」
「領主? あぁ……あの泥棒猫のことですか」
「ど、泥棒猫……?」
「なおさら、従うつもりはありませんね。というか……」
追加の一閃。
さらに二人の兵士が倒れた。
「娘と家族を渡すような母親はいませんよ」
――――――――――
「なんだか、屋敷が騒がしいような……?」
夢中になって調べ物をして……
ふと、ドタンバタンという音が聞こえてくることに気がついた。
なにかが起きている?
「あら、仕方のない方ですね」
「っ!?」
聞き覚えのある声。
ばっ、と振り返ると、部屋の入り口にナナカと複数の兵士がいた。
「……ナナカ……」
「ネズミが紛れ込んでいると聞いて、急いで駆けつけたのですが、まさかフェイトさまだったなんて。とても残念です」
「この騒ぎは?」
「さて、なんのことでしょう?」
「……ナナカが関わっているんだね」
こんな状況なのに、ナナカは落ち着いていて、余裕も見えた。
なにが起きているのか、きちんと理解しているのだろう。
あるいは、自分で仕掛けたことなのか。
「ナナカは……聖獣を狙っているの? それで、僕達に近づいてきた?」
「そこまで突き止めてしまいましたか……まったく、本当に困りものですね」
ナナカは、ふと、寂しそうに笑う。
「その通りです」
「……っ……」
「ただ……フェイトさま。あなたを好ましく想っていたことは、それもまた、事実なのですよ? ここでお別れになること、とても残念に思います」
そう言って、ナナカは兵士達に合図を送る。
兵士達は剣を抜いて、一斉に襲いかかってきた。




