425話 もう一匹の聖獣
獣の姿を持ちながら、神に等しい力を持つ。
それが、聖獣。
聖獣は人間に寄り添い、共に暮らしてきた。
その力と知識を人間のために。
我が子のように守り、一緒の時間を過ごしてきた。
ただ、全ての聖獣が人間の隣にいたわけではない。
むしろ、人間と共に歩むことを決めたのは一部。
大半の聖獣は、人里離れた僻地で静かに過ごしていたらしい。
空を覆うほどに巨大な翼を持つ鳥。
海の底で静かに眠る巨大な海蛇。
大地を支配する九尾の狐。
様々な種族といたとされている。
ただ……
今は、その姿はない。
記録も失われて久しい。
なにが起きたのか?
それはわからないが、獣型以外の聖獣は、そのほとんどが絶滅したようだった。
――――――――――
「聖獣に色々な種類がいたなんて……」
初耳だ。
こうして、ナナカの資料を盗み見していなかったら、ずっと知らないままだったかもしれない。
さらに資料を読み進めていくと、マシュマロらしき項目を見つけた。
「猫型の聖獣……見た目は猫に近く、サイズも猫そのもの。しかし、その背中に翼が生えていて、膨大な魔力を宿す。これ、マシュマロのことだよね?」
古ぼけたものだけど、イラストも添付されていた。
マシュマロと考えて間違いない。
「マシュマロは……たぶん、別種の聖獣の子供。なんで、そんな存在がこんなところに? そして、ナナカはマシュマロを狙っていた?」
疑問を解き明かすために執務室に忍び込んだのに、さらに疑問が増えてしまう。
もどかしい。
それでも、事態を解決して把握するために調査を進める。
「これは……ナナカの手記か」
聖獣のことが書いてあるかな?
と期待して開いてみると、まったく別のことが書かれていた。
エイシア家の現状についてだ。
オーシャンホエールを治めるエイシア家。
しかし、近年は財政状況がよくないらしい。
と、いうのも……
観光で栄えているものの、大きく栄えたせいで癒着などの不正が横行しているという。
監視の目が行き届かず、ゆっくりと腐敗が進んでいる。
そして、あろうことか先代も犯罪に手を染めていた。
そのことが発覚したことで、一時、エイシア家は取り潰しの危機に遭ったものの……
オーシャンホエールを栄えさせたという功績があり、取り潰しは避けられた。
しかし、もう二度と失敗はできない。
そして、信頼を回復させるために、今まで以上の成果をあげないといけない。
「……そのために、マシュマロの魔力を求めている?」
そう考えると辻褄が合う。
ただ問題は、なにを成し遂げようとしているのか? ということ。
ナナカの最終的な目的がわからない。
ただ、予想はできた。
「もしかして……また、昔と同じような過ちを?」
聖獣を贄として、その土地を栄えさせる。
昔の人は、そんなとんでもない過ちを犯して……
それがきっかけで魔獣が誕生して、黎明の同盟なんてものも生まれ、今に至るまで大きな爪痕を残す結果となった。
「まずいよ、これ」
まだ推測の域を出ない。
証拠はない。
でも、妙な胸騒ぎがした。
それは、まるで確信を抱いたかのようで……
他の可能性は考えられなくなっていた。




