420話 一匹と一匹
「ワンッ」
「にゃー」
スノウとマシュマロがそれぞれ一回鳴いて、じっと見つめ合う。
二匹は仲良くできるかな?
マシュマロは人懐っこいところがあるけど……
でも、それは人間だけかもしれない。
同じ動物……しかも自分よりも何倍も大きい相手だと萎縮してしまうかもしれない。
逆に、スノウはどうだろう?
新しい家族。
もしかしたら、アイシャを盗られるかもしれないと嫉妬するかもしれない。
マシュマロを敵認定してしまうかもしれない。
ハラハラしつつ二匹の様子を見守っていると……
「にゃう」
マシュマロがスノウに近づいて、すんすんと鼻を鳴らす。
どうやらスノウの匂いを嗅いでいるみたいだ。
「ワフッ」
スノウも鼻を近づけてマシュマロの匂いを嗅ぐ。
自然と互いに鼻を擦りつけるようになって、見た目は仲良しだ。
「にゃん!」
マシュマロがさらにスノウに近づいて、ぺしぺしと前脚を叩いた。
スノウはちょっと迷惑そうだ。
でも、じっとして、マシュマロの好きにさせている。
ほどなくして座ると、マシュマロがスノウの上に乗る。
スノウのお腹の上でくるっと丸くなり、心地よさそうな顔に。
マシュマロが上に乗られているものの、スノウは嫌そうな感じはしていない。
むしろ嬉しそうだ。
こちらも心地よさそうな顔をして、くあ、っとあくびを一つ。
ほどなくして、うつらうつらとして……
「ワフ……」
「にゃー……」
二匹は昼寝を始めるのだった。
――――――――――
「スノウとマシュマロ、なかよし!」
「うん、そうだね」
二匹の昼寝を邪魔をしてはいけないと、僕達は部屋を出て、屋敷の庭園を散歩していた。
アイシャは僕と手を繋いで。
そして、リコリスはアイシャの頭の上に。
その後ろに、ソフィアとレナが肩を並べている。
「アイシャも、マシュマロとなかよくなれるかな……?」
「アイシャはマシュマロと仲良くなりたい?」
「うん!」
「なら、大丈夫。そう思っているのなら、きっと仲良くなれるよ」
「ほんと!? やったー!」
アイシャは笑顔でぴょんぴょんとジャンプして、
「ひゃあ!?」
頭の上に乗っていたリコリスがどこかに飛ばされた。
まあ……たぶん、大丈夫だろう。
飛べるし。
「それにしても……」
後ろを歩くレナが、ふと思いついた様子で言う。
「この家、妙に人が少ないわね?」
「そうですね。これだけの規模の屋敷なら、もっと侍女や執事。あるいは庭師や料理人がいてもおかしくないのですが……」
ソフィアは領主の娘だから、そういうところは詳しいのだろう。
「そういえば、誰もいないような感じだよね」
「庭園に庭師はいない。ここに来るまでの間、誰ともすれ違わない」
「それなのに、屋敷は綺麗に保たれている……ちょっとした謎ですね」
そう言われてみると不思議だ。
どうなっているんだろう?
「主人だけではなくて、屋敷も謎ねー」
どこからともなくリコリスが戻ってきた。
「ところで、こんなものを見つけたわ」
「え? それは……」
「この屋敷の紋章っぽいわよ」