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42話 新ギルドマスター

 街に戻った頃には、すっかり日が沈んでいた。

 そのまま宿へ。


 そして、翌日。

 俺達はギルドを訪ねた。


「すみません」

「あ、スティアートさん。それに、アスカルトさんと……よ、妖精?」


 ふわふわと飛ぶリコリスを見て、受付嬢の目が丸くなる。


 希少種と呼ばれていて、なおかつ人間嫌いの妖精が一緒にいることに驚いているのだろう。

 受付嬢だけじゃない。

 たまたまギルドを訪れていた他の冒険者達も、物珍しそうな視線をこちらに送ってきていた。


 ただ、物珍しそうに見るだけで、リコリスを捕まえて一攫千金を企む者なんていない。

 人によって妖精狩りが行われたものの……

 その後、狩りに参加した人のほとんどが謎の死を遂げたのだ。

 しかも、むごたらしく長い間苦しむという方法で。


 真実かどうかわからないが、妖精の呪いと言われている。

 以来、妖精を狩る人はほとんどいなくなり、絶滅手前で安全が確保された、というわけだ。


 とはいえ、呪いなんてウソっぱちだ、と気にしない人がリコリスを狙わないとも限らない。

 何事もないように、街中などでは、常に気を配らないと。


「どうして、妖精が一緒に……?」

「友達になったんだ」

「な、なるほど……?」

「それよりも、馬車の手配をしてほしいんだけど」


 ギルドでは依頼を斡旋するだけじゃなくて、馬車の手配なども行ってくれる。

 自分で手配してもいいのだけど、伝手のあるギルドの方が色々と効率的なのだ。


「馬車ですか? どちらまで?」

「ちょっと遠いんだけど、リーフランドまで」


 リーフランドというのは、大陸の南端にある港町だ。

 交易と漁業で栄えていて、とても活気のある街……らしい。


 シグルド達の奴隷にされてから、色々な街を見て回ったのだけど、リーフランドに行ったことはまだない。


 どうして、リーフランドに向かうのか?

 それは、リーフランドがソフィアの第二の故郷だからだ。


 親の仕事の都合で、ソフィアは幼い頃、リーフランドに移住した。

 以来、そこで長い時を過ごして……

 そして、冒険者になり旅に出て、今に至る。


 ソフィアは僕のことを両親に紹介したいらしく、ぜひ、と言われた。

 僕としても、久しぶりにおじさんとおばさんに会いたいので、二つ返事で了承した。

 リーフランドを訪ねた後は、僕の故郷を案内したい。

 ソフィアの第一の故郷でもあるから、きっと懐かしいと思ってくれるだろう。


「えっ、スティアートさんとアスカルトさん、街を出ていってしまうんですか?」

「はい、そうですが?」


 ソフィアがにっこりと笑いつつ、しかし、冷たく応える。

 この街のギルドでは、色々なことが起きたから、良い印象は抱いていないのだろう。

 たぶん、内心ではざまあみろ、と思っているに違いない。


 ただ、命令に逆らえない受付嬢に罪はないから、あまり意地悪はしないであげてほしいのだけど。


「そうですか、残念ですね……はい、わかりました。では、馬車の手配をしておきますが、どの程度のランクの馬車を希望しますか?」

「長旅になると思うから、高いランクのものですね。それなりに高くなっても構いません」

「わかりました。では、二つか三つ、ピックアップしておきますね。長距離の馬車となると、手配に少々時間がかかるため、数日ほど待っていただければ」

「構いませんよ」

「では、三日後くらいに来てもらえれば。あっ……それと、今、時間はありますか?」


 なにか思い出した様子で、受付嬢がそんなことを尋ねてきた。


「時間はあるけど……」


 何事だろうと、ソフィアと顔を見合わせる。

 そんな僕達に、受付嬢は恐る恐る言う。


「えっと、ですね……つい先日、新しいギルドマスターが着任されまして、それでお二人に挨拶がしたい……と」

「さあ、行きましょう、フェイト。私達に余分な時間なんてありませんよ」

「あああああっ、待って、待ってください! 以前のことなら、いくらでも謝罪いたしますぅ! でもでも、私も上からの圧力で動けなくて、あ、いえ、とにかくすみません!!!」


 哀れみを誘うほどに、受付嬢が全力で引き止めてきた。


「ソフィア、話を聞くくらいなら……」

「甘い、粉砂糖と練乳とはちみつをかけたパンケーキくらい甘いですよ。冒険者を相手にする受付嬢は、並大抵の心では務まりません。この哀れみを誘う言動は全て演技。私達を引き止めるためなら、なんでもやるのですよ」

「そう、なのかな……?」


 だとしたら、相当なものだと思うけど……

 ただ、本気の部分もいくらか混じっているような気がした。


「でも、あと数日はこの街に滞在することになるし、戻ってこないとも限らないし、ギルドマスターに面会できるのなら面会しておいた方がいいんじゃないかな? 知っているのと知らないのとでは、対処方法も違ってくるだろうし」

「それは……まあ、確かにその通りですね。わかりました、話を聞きましょう」

「ありがとうございます、ありがとうございます!」


 ひたすらに感謝する受付嬢に案内されて、客間へ移動する。

 紅茶を飲みつつ、待つこと五分ほど。


「おまたせ、またせちゃったかな?」


 姿を見せたのは、メガネをかけた飄々とした男だ。

 前ギルドマスターが戦士とするのならば、この男は文官という感じ。

 剣よりも本を持つのが似合うだろう。


「僕が、この街の新しいギルドマスターのクリフ・ハーゲンだよ。よろしくね」

「えっと……はい、よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」


 ギルドマスターらしくないなあ、と意表を突かれる僕。

 対するソフィアは警戒しているらしく、ピリピリとした雰囲気だ。

 相手の言動に惑わされることのないソフィアは、すごく頼りになる。


「それで、挨拶がしたいということでしたが……私達になにか話でも? 私達の方からは、なにもありませんが」


 つまらない話なら覚悟してください、というような感じで、ソフィアは、半ばクリフを睨みつけていた。

 ちょっと怖い。

 剣聖だから、圧もすごいんだよね。


 でも、そんなソフィアの勢いに飲まれることなく、クリフは飄々とした態度を崩すことはない。


「まあまあ、そんなに警戒しないで。あ、ドーナツ買ってきたんだけど食べる? この街一番のドーナツで、すごくおいしいよ?」

「けっこうです」

「僕はもらおうかな?」

「えっ、フェイト!」

「食べ物に罪はないし、それに、確かにおいしそうだよ?」

「それはそうですが、もしかしたら毒が仕込まれているかもしれません」

「大丈夫。奴隷時代に毒に等しいものをたくさん口にしてきたから、ある程度の耐性はあるよ」

「それ、誇るところですか……?」


 ソフィアは呆れたように吐息をこぼして……

 それから、やれやれとドーナツに手を伸ばす。


「なにか入っていたら、承知しませんからね?」

「そんなことはないよ。約束する。これは、二人をもてなすために自腹で買ってきたものなんだ。まあ、自腹といっても、そんな大した金額じゃないんだけどね」

「……いただきます」


 飄々とした態度のクリフと、凛としているソフィア。

 この二人、水と油みたいだなあ。


「それで、話というのはなんですか?」

「謝罪と依頼、この二つだよ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] あの元パーティは捕まった後どうなったんだろうか…
[気になる点] 「あまり意地悪はしないであげないでほしいのだけど。」 →意地悪しろ、ってことになりますよ。
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