418話 疑問と疑念と
「にゃん」
「オンッ」
部屋に戻ると、アイシャが猫とスノウと一緒に遊んでいた。
部屋を出る前は二匹はケンカ一歩手前という感じだったけど……
今は、その光景が嘘のように仲がいい。
互いにじゃれあい、舐め合い。
そして、一緒にアイシャと遊んでいる。
すごい。
アイシャがテイマーみたいだ。
これも巫女が為せる技なのかな?
「おかえり。どーだった?」
留守番をしていたレナが、そう問いかけてきた。
ナナカとのやりとりを簡単に報告する。
「ふーん……ソフィアも同じか」
「同じ、とは?」
「ボクも、なんかあいつ怪しいなー、って思っていたんだ」
「なるほど。レナもですか」
二人はなんの話をしているんだろう?
不思議に思っていると、ソフィアが説明をしてくれる。
「ナナカさんのことですよ。まだ確証はないですが、少し嫌な感じがします」
「え、ナナカが?」
それは、僕が告白されたから……とかじゃなくて?
「それは、まあ……もちろん、それも気にしていますが」
気にしているんだ。
「ナナカさんは、あまりに物分りがよすぎます」
「それは、ダメなの?」
「こちらとしては助かることですけどね。ただ、ケルベロスの話をしても大して驚いていませんでした。知っていたというよりは、こうなることを予想していた、という感じですね」
「言われてみると……」
ソフィアの言う通りかもしれない。
普通の人は、ケルベロスが現れたなんて聞いたら驚くはず。
僕は、ナナカが為政者だから、と思っていたけど……
そっか。
ソフィアの言う可能性もあるんだよね。
「ボクは、勘になるかな。あと、都合がいいって思ったところ」
「都合がいい?」
「たまたま外に出て、たまたま魔物に襲われて、たまたまボク達が通りかかって、たまたまフェイトに一目惚れした……後になって考えると、ちょっと都合が良すぎるんだよね」
「それは……でも、偶然っていう可能性は捨てられないよね?」
「だね。でも、疑わしい点を捨てる理由にもならないよ」
これもレナの言う通りだ。
ちょっと偶然が並びすぎていたかもしれない。
「とはいえ、まだ、ナナカさんを黒と決めるわけにはいきませんけどね」
「黒だとしても、なにをして、なにを考えているのか、そこはさっぱりだからねー」
「……」
二人の言葉を聞いて、僕は、ただただ驚くしかない。
「フェイト、どうかしましたか?」
「あ、ううん……その、僕も、二人みたいにもっと色々と考えて疑っていかないといけないなあ、って思って」
ソフィアやレナのように、たくさんものを考えていない。
提示された情報をそのまま受け取る。
それだけ。
ちょっと恥ずかしい。
「大丈夫ですよ」
ソフィアが優しく微笑み、僕を抱きしめる。
「むぎゅっ!?」
「フェイトは、そのままが一番です。レナのように廃れたりひねくれたりしないでくださいね」
「ちょっと、それどういう意味さ!?」
「そのままの意味ですが?」
「むっ」
「むっ」
僕を離して、ソフィアはレナと睨み合いを始めてしまう。
うーん。
一緒に旅をしているんだから、少しは仲良くなったかと思っていたんだけど、まだまだみたいだ。
「あんまり気にしない方がいいわよ」
「リコリス」
ふわっと、リコリスが頭の上に乗ってきた。
「二人共、フェイトに良いところを見せたいだけ。それで張り合ってるだけで、仲が悪いわけじゃないからねー」
「そんなことまでわかるの?」
「ふふーん、あたしを誰だと思っているの? 人間観察のエキスパートマスターパーフェクトリコリスちゃんよ!」
いつの間にか妙な呼び名が増えていた。
「ま、気にしないことね」
「うん、そうするよ」
リコリスは、とぼけているようで、でも、ちゃんと人を見ている。
そんな彼女がここまで言うのだから、それを信じよう。
だから、今考えるべきことは……
「ナナカ……か」




