417話 報告とこれからと
「ケルベロス……ですか」
街の外のことをナナカに報告すると、当たり前だけど険しい顔をされた。
ケルベロスは珍しいだけじゃなくて、とても強い力を持っている。
そんな存在が近くにいるとなれば、険しい顔をするのも当然だろう。
「討伐はしたから大丈夫」
「番や群れを見つけたわけでもありません。まあ、他にいないと断言はできませんが」
「そうですか……ありがとうございます。もしも、あのまま放置していたら街が襲われていたかもしれません。事前に食い止めていただき、本当に感謝いたします」
それでもまだ、ナナカの険しい表情は消えない。
「しかし、どうしてケルベロスなんてものが……」
「今までは?」
「もちろん、そのような報告は聞いていません。基本、強力な個体は人間を避ける傾向にありますからね」
「あれ、そうなの?」
「そうですよ」
ソフィアが代わりに説明してくれる。
「強力な個体は、力だけではなくて知識も優れていますからね。大抵は、人間と争うのは得策ではないと、街から離れたところに巣を作るんですよ。まあ、絶対とは言えないので、ケースバイケースになりますが」
「なるほど」
それなりに強くなったつもりだけど、知識はまだまだだ。
どこかのタイミングで勉強とかしたいな。
「あ、それと……」
妙な猫の話をしようとして、
「私達が見つけたものは以上です」
被せ気味にソフィアに話を止められてしまう。
ソフィア?
「……」
私に任せてください、と目配せされた。
なにか考えがあるのだろう。
彼女に任せることにした。
「街の外で起きていた異変は、もしかしたらケルベロスが原因かもしれません。なにかしらの要因でケルベロスがやってきて、その高い魔力で周囲の魔物達が活発化した」
「なにかしらの要因、というのは?」
「偶然なのか故意なのか、そこはまだわかりません。これから、さらに調査を進めていきたいと思います」
「そうですか……わかりました。どうか、引き続きよろしくお願いします」
「はい」
話が終わり、部屋を後にした。
「ソフィア、どうして猫のことを?」
「冒険者の勘、ですね」
「勘?」
「あの泥棒猫……ではなくて、ナナカさんは、なにか隠し事をしていると思います」
「えっ」
「それがどういうものなのか、今はわかりませんけど……猫のことは話をしない方がいいと思いました」
「うん、了解」
「え」
なぜか、今度はソフィアが驚いていた。
「えっと……私が言うのもなんですが、そんなにあっさり納得していいんですか? 質問攻めにされることは覚悟していたんですけど……」
「僕は、ソフィアのことを信じているから」
「……」
「だから、大丈夫。僕は、どこまでも一緒にいるだけだよ」
冒険者としての実績、経験はソフィアの方が圧倒的に上だ。
その彼女が言うことなら、僕は従うだけ。
それと。
実績とか経験を抜きにしても、僕はソフィアのことを信じている。
道を踏み外すことはない。
まっすぐ進んでくれる。
時に間違えたとしても、それならそれで、一緒に力を合わせて正せばいい。
それだけだ。
「あーもう……」
「ソフィア?」
今度は、ソフィアは頬を赤くした。
「そんなに嬉しいことを言われたら、どうにかなってしまいそうじゃないですか……」
「僕としては、当たり前のことを言っただけなんだけど」
「それを当たり前と言えるのは、フェイトだけですよ。もう」
「???」
そんなにおかしなことを言ったかな?
「ありがとうございます、フェイト」
「えっと……うん、どういたしまして」
ソフィアが笑顔だから、よしとしよう。




