416話 微笑ましい嫉妬
ナナカの屋敷に帰る。
報告はソフィアに任せて、僕は、猫? と一緒にアイシャとスノウとレナのところへ戻った。
「わぁ!」
猫? を見て、アイシャが瞳をキラキラと輝かせる。
「かわいい! おとーさん、この子は? 猫さん?」
「えっと……うん、猫さんだよ」
正体不明だけど、うまく説明できる自信がないので、アイシャの前では猫として扱うことにした。
「かわいい♪」
「ちょっとだけ僕達が預かることになったんだ。仲良くしてあげてね?」
「うん! 猫さん、遊ぼう?」
「にゃー」
猫はごきげんな様子で鳴いて、アイシャの後ろをついていく。
よかった、アイシャにも懐いてくれたみたいだ。
「なに、あの猫?」
レナが不思議そうに声をかけてくる。
「うーん……僕達もよくわからないんだよね」
街の外で起きたことを説明する。
「ケルベロスにその猫……んー、本当によくわからないね。でも、うーん?」
「どうしたの? レナは、なにか心当たりが?」
「断言はできないけど……なんか、魔獣に似てるね、その猫」
「「えっ」」
ソフィアと揃って驚きの声をあげた。
「見た目とか、そういう話じゃないよ? なんていうか、こう……雰囲気的なものが? あと、魔力的なものも」
「うーん?」
レナに言われて、改めて猫を観察する。
アイシャの膝の上に乗り、前足で体をちょんちょんとしている。
時折、「にゃあ」と鳴いて、体を擦りつけている。
……背中の翼以外、猫にしか見えない。
「とてもじゃないけど、魔獣には見えないんだけど」
「私も同感です」
「まあ、二人にはわかりにくいか。ボクは魔獣の近くで過ごしてきたから、なんとなくだけどわかるんだ。この子は魔獣の親戚みたいなもの、ってね」
レナがここまで言うのだから嘘は吐いていないはず。
でも……うーん?
この猫が魔獣に近しい存在と言われても、やっぱり首を傾げてしまう。
「あはは、猫さん、猫さん♪」
「にゃん!」
アイシャは猫と楽しそうに遊んで……
「キューン……」
それを見たスノウが、とても寂しそうに鳴いた。
そこは自分の場所なのに。
アイシャの相手は自分のはずなのに。
そんなことを言っているかのようだ。
「グルル……」
ついに威嚇すら始めてしまうのだけど、
「スノウ、めっ」
「!?」
アイシャに怒られてしまい、ショックを受けたらしく、スノウは雷に打たれたかのように震えた。
そのまま、よろよろとふらついて……
ぱたん、と倒れてしまう。
「あー……ほらほら。あたしが一緒に遊んであげるわよ? あたしはスノウの方がいいわよ?」
「クゥーン……」
見かねた様子でリコリスがスノウを慰めていた。
猫が可愛いのはわかるけど、でも、スノウに悪くしたらいけない。
後で、ちょっとアイシャと話をしておかないと。
それはそれとして。
「レナが言うように、その子が魔獣に近い存在だとして……ケルベロスは、その子のせいで?」
「可能性はあると思うよ。どういう仕組みなのか、猫がどういう存在なのか、そこら辺はさっぱりだけどねー」
「肝心のところがわからないと、ちょっと……」
依頼を果たした、ということにはならない。
それに、仮に猫が原因だったとしても、どうしたらいいのか?
さすがに、排除するなんてことはしたくない。
「うーん……ソフィアはどうしたらいいと思う?」
「そうですね……もう少し様子を見ましょう。レナの話はそれなりの説得力がありますが、しかし、断定できるほどではありません。この子を保護して、様子を見て……これからのことを考えていきましょう」
「そうだね」
ひとまずの方針は決まった。
それはいいんだけど……
「猫さん、猫さん♪」
「にゃん!」
「グルルル……」
アイシャが猫と遊んで、スノウがそれに嫉妬する。
色々な意味で幸先が不安になる光景だった。




