415話 本当の新種?
とんでもない魔力を感じる。
例えるなら、そう……
ジャガーノートのような、圧倒的な存在感。
慌てて剣を抜いて振り返り、
「にゃん」
「え?」
その先には猫がいた。
いや……猫?
30センチくらいで四本脚。
ぴょんと尖る耳と、くねくねとうねる尻尾。
ふわふわの毛。
一見すると猫だけど、一点、ありえない箇所があった。
翼が生えているのだ。
ふわりとした白い翼が背中から伸びている。
「って……今のとんでもない魔力は、この子から?」
悪寒は消えている。
悪い感じはしない。
ただ……
猫? からは妙なプレッシャーを感じた。
僕は剣士だから、はっきりと魔力を感じ取ることはできないんだけど……
そんな僕でもわかるような、強大な魔力。
それを、このよくわからない子から感じる。
「フェイト、どうかしましたか?」
「なになに? 他に新種でもいた?」
ソフィアとリコリスがこちらにやってくる。
「新種と言えば新種かもしれないけど……」
「うにゃっ」
猫? が僕の足元にやってきた。
そのまま、こちらの足に顔を擦りつけてくる。
「あら、可愛いですね」
「なによ、こいつ? マスコットのリコリスちゃんを脅かそうっていうの?」
二人も猫? に気づいたみたいだ。
っていうか、リコリスはマスコットを自認していいの……?
「この子はどうしたんですか?」
「いや、僕もよくわからないんだけど、ここに隠れていたのかな? あと、勘違いでなければ、すごい魔力を持っているよね」
「そうですね……リコリス、どう思いますか?」
「んー……ありえない魔力量ね。猫とか、そんなレベルを一気に超えているわ。人間よりも……下手したら、妖精であるあたしよりも上」
リコリスにここまで言わせるなんて相当なものだ。
魔法に関してはプライドが高いからな。
「……もしかして」
「なにか心当たりが?」
「あ、ううん。ただの推測になるんだけど……この子が、本当の新種じゃないのかな、って」
どうしてかわからないけど、猫? はとんでもない魔力を持っている。
その魔力に誘われる形で、オーシャンホエールの周囲に魔物が集まってきた。
また、ケルベロスのような珍しい魔物も生まれた。
「そう考えると納得がいくのかな、って」
「確かに……」
でも、僕の推測が正しいとしたら、猫? はとんでもなく厄介な存在だ。
そこにいるだけで魔物を呼び寄せて、新種、珍種を生み出してしまう。
放っておくことはできないけど……
「うりうり。ほーれ、にゃんと鳴いてみなさい!」
「にゃー」
「ふははは! 鳴いたわね。それはつまり、あたしの軍門に降るということ。いい? 今日からあたしがボスよ」
「にゃん!」
とんでもなく平和なやり取りが繰り広げられていた。
「……あれを見ると、とてもじゃないけど、悪い子には見えないんだよね」
「私も同意見です」
ソフィアと一緒に笑う。
討伐なんて方法は取りたくない。
できるなら連れて帰り、調べたいんだけど……
でも、本当に魔物を呼び寄せてしまうとしたら厄介だ。
どうしよう?
「魔物なら、なんとかなるわよ」
こちらの考えていることを察した様子で、リコリスがそう言う。
「本当?」
「こいつ、魔力の制御がでたらめというか、なにもわかっていないみたい。だから、魔力がダダ漏れになっているのよ。今は、あたしの魔法で遮断すればいいわ。で、後で制御方法を教えればいい」
「そんなことができるんだ」
「ふふーん、あたしを誰だと思っているの? 天才美少女ミラクル……」
「では、すぐに魔力の遮断をお願いしますね」
「あ、ちょっと。最後まで名乗らせなさいよ! これ、楽しいのに!」
楽しんでいたの?
なにはともあれ……
リコリスによって魔力を遮断してもらい、猫? と捕縛したケルベロスと一緒にオーシャンホエールに戻ることにした。