414話 追跡
「リコリス、だいじょう……」
「うあああああぁーーーんっ!!!」
リコリスが滝のような涙を流しつつ、僕の頭に抱きついてきた。
「お、遅いのよぉっ! 怖かったじゃない、もうもうもうっ!」
「えっと……ごめんね」
「まあ、天才可憐奇跡美少女リコリスちゃんなら、あれくらい、なんとかなったけど? でも、囮だから仕方ないというか? ふーんだ!」
ものすごく感情が不安定だ。
本当に怖かったのだろう。
無理をさせてしまい、申しわけない。
でも、おかげで新種を釣ることができた。
感謝だ。
「フェイト、追いましょう!」
「うん!」
もしかしたら仲間がいるかもしれないから、巣を突き止めておきたい。
そのために適度に傷を与えて、逃げるように仕向けたのだ。
リコリスを肩に乗せて、ソフィアと一緒に森の中を駆ける。
距離を取っているため、ケルベロスの姿は見えない。
でも、気配をしっかりと捉えているから見失うことはない。
しばらく森を駆けて……
30分ほどしたところでケルベロスの巣に到着した。
「あの洞窟みたいだね」
木々の隙間に隠れるように、小さな洞窟があった。
たぶん、そんなに深くない。
ダンジョンのようになっている、ということはないだろう。
「ソフィア、どうしようか?」
「できれば捕らえたいのですが……」
「仲間がいるかもしれないね」
「まとめて、というのは難しいかもしれませんね」
一匹なら捕獲は可能だ。
でも、仲間がいると難しい。
「ふふーん、ここはあたしの出番ね!」
リコリスがドヤ顔で言う。
「魔法で眠っちゃう霧を洞窟の中に流し込むわ。遅効性だけど、無味無臭だからバレることはないわ。眠ったところをズババーン! ってやればいいわ」
「おー、すごいね、リコリス」
「もっと褒めてもいいわよ、ふははは!」
「では、それでお願いします」
「ソフィアの方は、反応が淡白なのよね、まったく……」
「リコリスは調子に乗らせたらいけませんからね」
「へいへーい。じゃ、さっそく」
リコリスが魔法を唱える。
白い霧が生まれ、心なしか周囲の気温が下がったような気がした。
霧は生き物のようにゆっくりと動いて、洞窟の中へ。
そのまま内部を満たしていく。
「効果が出るまでどれくらい?」
「1時間はかかると思うわ。他の生き物なら10分くらいだけど……相手はケルベロスでしょ? 耐性があるって考えて、1時間は見ておいた方がいいわね」
「おー、リコリスもちゃんと考えているんだね」
「そうよ、リコリスちゃんは考える女よ!」
「……今の、軽くバカにされていましたよ?」
――――――――――
リコリスの霧で洞窟を満たして1時間が経った。
警戒をしつつ、洞窟の中に入る。
見立ては正しく、浅い洞窟だった。
すぐ最深部に行き着く。
ケルベロスが一匹、横になって寝ていた。
僕達と交戦したヤツだ。
「他は……いないね」
「どうやら、一匹だけみたいですね」
「仲間がいるかも、って思ったけど……よくよく考えたら、ケルベロスが何頭もいるわけないか」
頑丈な縄を取り出して、ケルベロスの手足を拘束。
さらに一気に三つの頭部を縛り、口を開けないようにした。
ここまでしても、ケルベロスは寝たままだ。
リコリスの魔法はよっぽど強力なんだろう。
「よし。とりあえず、こいつを連れて帰ろう。街で調べたらなにかわかるかもしれない」
「そうですね」
「あたしが魔法で浮かせてあげる。そうした方が運びやすいでしょ?」
「ありがとう、助かるよ。それじゃあ……っ!?」
瞬間、ゾクリとした悪寒が背中を駆け抜けた。




