413話 るーららー
「るーららー……」
森の深いところ。
リコリスが一人、ふわふわと飛んで移動していた。
「あたしは超絶可愛いミラクル妖精~♪ でも、とても可愛そうな妖精~♪」
よくわからない歌を歌い……
ややあって、ピタリと止まる。
「なんであたしが囮をやらないといけないのよ!?」
それがフェイト達が立てた作戦だった。
フェイトとソフィアがいると、二人のオーラで新種が逃げてしまうかもしれない。
なら、まったくオーラを持たないリコリスを囮にする。
もちろん、いつなにが起きてもいいように、フェイトとソフィアは少し離れたところで待機している。
「はぁ……あたし、こういう役目は似合わないのに。舞踏会で華麗に踊るとか? 全世界美少女コンテストに出場するとか? 貴族のイケメンに求婚されるとか? そういう方がお似合いでしょ、絶対。なんで囮とか泥臭いのをしないといけないのよ」
文句を垂れ流す。
文句製造魔導具のようだ。
ただ、なんだかんだ、文句を言いながらも二人のお願いを聞いてしまうところは彼女らしいとも言えた。
「あーあ、もうリコリスちゃんぷんすかよ。激おこプンプン丸よ。これが終わったら、約束通り、パフェを奢ってもらわないと。普通のパフェじゃダメ。開店前から行列ができるっていう、超名店のパフェじゃないとダメ。ふふーん、ちょっと楽しみね。やる気が出てきたわ」
ガサッ。
「ぴゃあ!?」
少し離れたところの茂みが揺れた。
驚いて、リコリスも揺れた。
「な、なによ……?」
その場で滞空。
音がした茂みをじっと見る。
そのまま1分。
再び音が鳴ることはない。
リコリスは吐息をこぼす。
「……なんだ、気のせいか。まったく、このリコリスちゃんを驚かせようとか、ここの森はいい度胸をしているわね。焼き討ちよ、焼き討ち。薙ぎ払え! ってやるところよ? でも、リコリスちゃんは可愛いから、心も広いの。ふふん、特別に許してあげる。まあ、魔物が出てきても大したことはないんだけどね。リコリスちゃんの本当の力ならワンパンよ、ワンパン」
「ガァッ!!!」
「ぎゃあああああ!? うそっ、嘘ですぅぅぅ!!!」
狼に似た魔物が飛び出してきて、リコリスは慌てて空に避難した。
涙目である。
「な、なななっ、なによ、あいつ!?」
最初はハンターウルフと思った。
しかし、よくよく見てみると違う。
体のサイズは数倍大きい。
それに、頭が三つあった。
物語に出てくるケルベロスに似ている。
過去、ケルベロスという魔物は存在した。
その脅威度は高く、高ランクの冒険者でなければ太刀打ちできない強さを誇る。
ただ、すでに絶滅しているはずだった。
「あれって、ケルベロスよね……? もう絶滅してるはずなんだけど……」
「グルルル……ガウッ!!!」
「ぴゃあああ!?」
右の頭が炎を吐いた。
リコリスは慌てて急旋回して避ける。
すると、今度は左の頭が雷を吐いた。
「ぴぇえええ!?」
速い。
が、なんとか避けることができた。
しかし、無理な回避行動を連続したせいで、体勢が完全に崩れてしまっている。
そこを狙っていたのだろう。
真ん中の頭が吹雪を……
「「破山っ!」」
絶体絶命のピンチを切り開いたのは、フェイトとソフィアだった
同時に飛び出して、同時に攻撃を叩き込む。
「キャイン!?」
ケルベロスが吹き飛び、悲鳴をあげる。
ただ、まだ倒れていない。
起き上がり、フェイトとソフィアを睨む。
ただ、自分が敵う相手ではないと判断したのだろう。
踵を返して逃げ出した。




