412話 新種
「もう少し調査を続けてみる? それとも、一旦戻る?」
「そうですね……」
詳細はわからないけど、異常なことが起きているのは確定だ。
もしかたら、さらにとんでもないことが起きるかもしれない。
今回は下見ということで、簡単な準備しかしていない。
予想外の事が起きたら対処できない可能性もある。
そういう判断について、僕はまだよくわからない。
単純に経験不足だ。
なので、僕よりも圧倒的に経験豊富なソフィアを頼りにすることにした。
「……もう少し調査を続けましょう」
「いいの?」
「はい。私もフェイトも、まだ余裕はありますからね。無茶をする、という範囲には入らないと思います」
いくらか魔物を相手にしただけ。
まだまだ戦える。
……僕も、それなりに成長している、って誇りに思っていいのかな?
「それと……嫌な予感がするので」
「嫌な予感?」
「急がないと手遅れになってしまうような、そんな……嫌な感じがします」
「そっか……うん。なら、今は調査を進めようか。がんばろうね」
「えっと……私の勘という曖昧な理由なんですけど、フェイトはそれでいいんですか?」
「ソフィアのことは、誰よりも信じているよ」
「……そ、その笑顔は反則です」
ソフィアが赤くなり、ふいっと顔を背けてしまう。
どうしたんだろう?
「フェイトって、将来、天然のたらしになりそうよねー」
「どういうこと?」
「さてね」
――――――――――
街道を外れ、いくらか森に踏み込んでみることにした。
道に迷わないように、剣で目印をつけていく。
目印がなくなったとしても、コンパスと地図があるから迷うことはないだろう。
途中、いくらか魔物が襲ってきた。
最初のハンターウルフとオーガと違い、連携をしかけてくることはない。
本能のままで襲う、という感じだ。
「うーん、特におかしなところはないね」
「さきほどの個体が異常なだけ、ということでしょうか?」
「結論を出すのは早いでしょ。ってか、新種とか異常な個体なんて少ないのが当たり前なんだから、なかなか当たりを引けないのは当然よ。粘り強く調査をしないと」
「「……」」
「なによ、その顔は?」
「り、リコリスが……」
「まともなことを言っています!?」
「どういう意味よ、それ!?」
ムキー、とリコリスが怒る。
ちょっとからかいすぎたかもしれない。
でも、ついつい驚いてしまうのは仕方ないと思う。
「確かにリコリスの言う通りですが……闇雲に調査を続けていては難しいですね」
「うん。当たりをいつ引くかわからないのが辛いね」
「そう考えると、最初に当たりを引いたのは運が良かったのですが……」
ハンターウルフとオーガと遭遇した時は、それが『当たり』なんて思ってもいなかった。
結果、普通に討伐してしまい……
できることなら捕獲しておきたかった。
今更の話だけどね。
でも、ついつい『たられば』を考えてしまう。
「で、どうすんの?」
「……ソフィア。新種が確認されたのは、森の奥の方なんだよね?」
「そうですね。狩りに出た人が、見たことない魔物を目撃したらしいです」
「でも、あたしらがいるところは、まさにその森の奥よ?」
新種はいない。
それについては心当たりがあった。
「えっと……他意はぜんぜんないんだけど、それ、ソフィアのせいかも」
「えっ」
「ほんと、他意はないんだ! ただ、えっと……ソフィアを怖がって避けているのかも」
ソフィアは剣聖だ。
どれだけがんばっても隠しきれないオーラがある。
そして、魔物はある意味で敏感な生き物だ。
強敵がいる!
と察知して、新種は隠れてしまっているのかもしれない。
「なるほど……でも、それを言うなら、フェイトも同じでは?」
「え?」
「フェイトは、もはや私に匹敵するほどの実力を得ていますよ? というか……真剣勝負をした場合、どうなるか私にもわかりません」
「まさか。そんなことは……」
「私が負けたゼノアスにフェイトは勝ちましたよ?」
「……」
「もう少し、フェイトは自分の価値を認めてあげてくださいね」
言われてみると……
うーん、そうなのかな?
色々とあって。
それなりの自信はついたけど。
でも、ソフィアと同じところに立っている、という自覚はない。
ないけど……
だとしたら嬉しいな。
「結局、どうするの?」
「うーん」
僕はダメ、ソフィアもダメ。
そうなると……
「「……」」
「な、なによ。なんで二人共、あたしを見るのよ?」




