408話 エイシア家
「おーっ」
ナナカの家に到着して、リコリスが声をあげた。
そうやって、ついつい声をあげてしまうような豪邸。
それがエイシア家だった。
城と間違えてしまうほどの豪邸。
丘の上に建っているため、眺望は最高。
庭も広く、様々な花や植物が育てられていた。
そんな邸内を見つつ、ナナカ直々に案内をしてもらう。
「すごいですね」
「一応、このオーシャンホエールの領主邸なので。みすぼらしいのでは締まらないですし、他の方々にも下に見られてしまいますからね」
「なるほど」
領主だからこそ、ある程度の見栄が必要ということか。
「それよりも……もっと普通に話していただけませんか?」
「え? いえ、でも……」
「聞けば、フェイト様は冒険者。この街の住民でもありませんから、必要以上にかしこまる必要はありませんわ。私は領主の娘ですが、しかし、王などという権威ある存在ではないのですから」
「それなら……うん、そうさせてもらうよ」
先の告白を本物と捉えるのなら、ナナカは僕と距離を詰めたいのだろう。
どうしようかな? と一瞬迷ったものの、素直にくだけた口調を使うことにした。
なんでもかんでも拒否すると、さすがにかわいそうで……
あと、口調を変えるくらいならいいと思ったからだ。
言葉だけで、僕の心はソフィアにずっと向けられている。
「あのお嬢様、なかなかのやり手ねー」
リコリスが僕にだけ聞こえる声でそんなことを言う。
「どういうこと?」
「フェイトなら断らないだろう、って見越した上の提案よ。そうやって少しずつ少しずつ距離を縮めていって、最終的にゴールイン、っていうのを狙っていると思うわ」
「そ、そうなの……?」
「恋する乙女は手段を選ばないものよ。それと、ものすごく狡猾なの」
女の子、怖い。
「こちらの部屋をお使いください」
ほどなくして客間に案内された。
「うわ、広い……」
「ちょっとしたスポーツができそうですね」
「おー、トイレだけじゃなくて、小さいけどお風呂もあるよ?」
なんだかんだ、ソフィアとレナも楽しそうにしていた。
こんな部屋に泊まれるとなればテンションは上がるよね。
「この後、お礼を含めた歓待の宴を……と考えているのですが、みなさんの予定は問題ありませんか?」
「うん、大丈夫。大丈夫だよね?」
みんなは問題ないと頷いた。
「では、後ほど声をおかけしますね。あと、部屋の外にメイドを待機させておきますので、なにかありましたら気軽に呼んでください」
「ナナカはどうするの?」
「私は、仕事の報告を父にしなければならないので……本当ならフェイト様と色々なことをお話したいのですが」
「仕事は大事ですよ」
「うんうん、大事だね」
間髪入れず、ソフィアとレナがナナカを仕事へ行くように促した。
こういう時は息ぴったりだよね。
「では、失礼いたします」
ナナカは丁寧に頭を下げて、部屋を後にした。
「まったくもう。ボクのフェイトに手を出そうとするとか、あの女、油断ならないね」
「レナのではなくて、私のものです」
ソフィアが睨みつける。
ただ、完全に落ちたアイシャをベッドに寝かせているため、手は出せないでいる。
スノウもベッドに上がり、アイシャの横でくるっと丸くなる。
「それにしても、驚きの展開よねー。ほんと、フェイト達と一緒にいると飽きないわ」
「僕は、もっと平穏な旅がいいんだけどね」
「告白の件はともかく……私達は冒険者なのですから、少しくらい波乱があった方が楽しいですよ」
「それはボクも賛成かな? 適度の危険は人生のスパイス、ってね」
そんなスパイス、嫌だなあ。
なんて考える僕は安全思考なのだろうか?
「とりあえず休みましょう。護衛はけっこう疲れるものですから」
「そうだね」
ここに来るまでナナカの護衛をしていたけど、その疲労が溜まっている。
あれから新しい盗賊や魔物に襲われることはなかったものの、常に警戒していたため、精神的な疲労が大きい。
歓待の宴まで、ちょっと昼寝をしたい。
「ベッドは四つあるから、ちょうどいいね」
「いいえ、フェイト。いざという時に備えて、ここは二人で寝るべきです!」
いざという時って、どんな時?
「そうそう、ボクと一緒に寝るべきだよ!」
「むっ」
「むっ」
二人の間でバチバチと火花が散る。
「やるのですか?」
「やる?」
「「むーっ」」
ソフィアとレナは睨み合い、
「おやすみ」
僕はなにも見なかったことにして、空いているベッドに横になるのだった。




