407話 オーシャンホエール
さらに数日をかけて、海の街オーシャンホエールに到着した。
海に面した街は北と南で分かれていた。
北は住宅街。
そして、海に港が作られていた。
同時に何十もの船が停泊できるような、巨大で立派な港だ。
南は商業街。
色々な店舗が並び、たくさんの観光客が歩いている。
海水浴場が整備されていて、泳いでいる人もたくさんいるらしい。
「どうですか、我がオーシャンホエールは?」
ナナカが自慢そうに言う。
それもそのはず。
彼女は、このオーシャンホエールを統治する領主の娘だったのだ。
父である領主の使いで隣街に赴いて、外交的な話をまとめて……
その帰りに盗賊達に襲われたらしい。
「観光客の方々にもっと安心して来てもらえるように、努力しないといけませんね」
「そうですね。盗賊とか魔物は、わりとたくさんいるので」
「ですが、おかげでフェイト様に出会うことができました。私は、これを運命だと思いますわ」
「えっと……」
ものすごく反応に困る発言はやめてほしい。
ソフィアとレナも睨まないで。
世間話をしているだけだから。
なにもやましいことはないから。
「みなさまは、宿をとっていらっしゃるのですか?」
「いえ。観光は考えていましたけど、わりと突発的なものだったから、予約はとっていなくて……」
「予約がないと大変ですわよ? 良い宿はすぐに埋まってしまいますからね。残っているのは、ちょっと微妙な宿です」
「そう……なんですか?」
「でも、安心してください。ぜひ、我が家にいらっしゃってください」
「え? でも、それは……」
「フェイト様と一緒にいたいという気持ちはありますが……でも、それだけではありません。受けた恩を返させてくださいませ。どうか私を、恥知らずにさせないでください」
領主の娘が命の恩人に対して「ありがとう」の一言で済ませたら、確かにそれは問題だ。
家に招いて歓待するのが普通の流れだろう。
ただ……
ソフィアとレナはどう思うかな?
告白の件で、すっかりナナカを敵認識しちゃっているし……
「そうですね。では、お世話になってもいいですか?」
意外にもソフィアが最初に話を受け入れた。
小声で尋ねる。
「いいの?」
「はい。良い宿がとれないというのなら、仕方ありません」
「ちょっと意外」
「私だけなら気にしませんが……」
ソフィアはちらりとアイシャを見た。
なるほど。
娘を安宿に泊まらせたくない、ということか。
自分よりも娘を優先する。
ソフィアが立派な『お母さん』をやっていて、そのことがなんだかとても嬉しい。
「それ、ボク達が一緒でもいいの?」
レナは大きく反対はしないものの、ジト目をナナカに向けていた。
対するナナカは笑顔で応える。
「はい、もちろんですわ。フェイト様だけではなくて、みなさんも命の恩人ですから」
「なら……まあ、いいかな。ボクも、安宿は嫌だもん」
「あたしもアリよ」
みんな、問題ないようだ。
ちなみにアイシャはおねむだ。
スノウの上に乗っているものの、半分くらい寝ていて、かくんかくんとなっている。
早く休ませてあげたい。
「じゃあ……せっかくなので、甘えさせてもらってもいいですか?」
「はい、喜んで」
こうして、僕達はナナカの家に招待されることに。
これがまた、一つの事件を巻き起こすのだけど……
それはまた後で。




