406話 またまた一目惚れ
「はい?」
幻聴?
聞き間違え?
今、なんて?
「私と結婚していただけませんか?」
ナナカは繰り返した。
うん、聞き間違えとか幻聴の類じゃないみたいだ。
彼女は僕に求婚している。
「えええぇ!?」
僕は驚いて叫び、
「「……」」
ソフィアとレナは、敵はいないはずなのに剣の柄に手を伸ばした。
やめて。
気持ちはわかるけど、怖いからやめて。
「えっと……冗談ですか?」
「いいえ、冗談などではありません。私、あなたに一目惚れしてしまいました」
「えぇ……」
「可愛らしさと凛々しさを兼ね備えていて。それでいて、とても強いのですね」
「盗賊達をやっつけたのは、ほとんどレナがやったことなんだけど……」
「ですが、あなたはまるで怯んでいませんでした。それだけの自信と力を持っているのでは?」
「それは、まあ」
それなりの修羅場は潜ってきたつもりだ。
ジャガーノートなんていう強敵も相手にした。
まだまだ未熟だけど……
でも、そこらの盗賊には負けないつもりだ。
「どうか、私と結婚していただけませんか? そして、一緒に元気な子供を作りましょう」
「ごほっ!?」
とんでもないことを言われて、思わず咳き込んでしまう。
「「……」」
ソフィアとレナがじとーっとした目をこちらに。
やめて。
僕はなにも言っていないからね?
「ねえねえ、リコリス。子供って、どうやって作るの?」
「あー……アイシャにはまだ早いわね」
「えー」
よかった、リコリスに常識があって。
「えっと……」
どうする?
どうやってこの事態を収める?
僕は頭をフル回転させて……
「と……とりあえず移動しましょう。こんなところにいたら、また盗賊に襲われるかもしれませんから」
――――――――――
ナナカの乗った馬車がゆっくりと走る。
その隣を僕達は歩いていた。
右側にソフィア。
左側にレナ。
まるで、僕をガードしているかのようだ。
「フェイト、どういうことですか? 私というものがありながら……」
「なんでボクとのえっちは避けるのに、あの子は受け入れちゃうのさ?」
「いやいやいや。僕はなにも言っていないから!? 受け入れてなんていないから!?」
「「むー」」
嫉妬は僕を好いてくれているという証。
だから、嫉妬してくれることは嬉しい。
……なんて、呑気なことは言えない。
剣聖と魔剣士の嫉妬なんて、なにが起きるやら。
なんかもう、普通に怖いよ。
「はぁ……いったい、どうしてこんなことに?」
「フェイトだからねー」
トラブルメーカーのリコリスには言われたくない台詞だった。




