405話 旅とトラブルと
王都を出て、ゆっくりと街道を歩いて行く。
次の目的地は海のある街だ。
結局、レナの案が採用された。
「よーしよしよし、わーしゃしゃしゃ」
「オフゥ、ウォ、オオオォン……」
レナはスノウの顎の辺りを撫でていた。
とても気持ちいいらしく、スノウの尻尾がはち切れんほどに振られている。
その後ろの方で、アイシャがスノウのお尻の辺りを撫でていた。
レナに対抗しているような感じだ。
こちらも嬉しいらしく、スノウはさらに尻尾を振る。
そんな様子を見守るリコリスは、忙しなく周囲を飛び回っていた。
ダイエットらしい。
「フェイト、道は合っていますか?」
「えっと……うん。たぶん、大丈夫だと思う」
今は地図を見て道を確認しているところ。
馬車を使えば、次の街まで簡単に移動できるけど……
それはそれで味気ない。
特に急ぐ旅でもないから、のんびりと、自分の足で歩いていきたかった。
分かれ道を右に進む。
林道が続いていた。
木の枝が長く伸びていて、頭上を遮っている。
陽の光がしっかりと届かないものの、最近は暑くなってきたのでちょうどいい。
「暑くなってきましたね」
「あ」
「どうしました?」
「僕も今、同じことを考えていたんだ」
「そうなんですか? ふふ、似た者同士ですね」
「うん」
互いに笑う。
楽しくて。
穏やかで。
こんな時間がずっと続いてほしいと思う。
……でも、そんな時に限ってトラブルはやってくるものだ。
「これは……」
馬の鳴き声と、人の悲鳴。
道の先に視線をやると、盗賊らしき男達に襲われている馬車が見えた。
「なんか、前にもあったような……」
「こういう事件は多々、ありますからね」
「一番乗り!」
「「あっ」」
ティルフィングを手に、レナが一気に駆け出していった。
最近、運動不足だって言っていたから……
盗賊達、かわいそうに。
――――――――――
盗賊はレナがほとんど蹴散らしていた。
一応、殺さなかったみたいだけど……
全員、盗賊をやっていたことを後悔するほどの傷を負っていて、さすがに同情した。
「ありがとうございます!」
初老の男性が腰を曲げて、大きく頭を下げた。
執事さんかな?
「なんてお礼を言っていいのか……」
「いいよいいよ。ボクも、ちょうどいい運動になったからねー」
「……私からもお礼を言わせてください」
馬車の扉が開いて、中からソフィアと同じくらいの少女が降りてきた。
ふわふわの金髪。
きらびやかなドレス。
一目で貴族とわかる。
「あなた達がいなければ、私達の命はなかったと思います。本当にありがとうございます」
「どういたしまして」
まあ、僕は馬車の警護に専念したので、実質、盗賊はレナが壊滅させていた。
ちなみに、ソフィアはアイシャ達の警護に徹していた。
「あの……身勝手な話であることは理解しているのですが、お願いがありまして」
「護衛ですか?」
ソフィアの問いかけに、少女はこくりと頷いた。
「訳あって、私達だけで旅をしているのですが、さきほどのようなことがまた起きるかもしれず……どうか、護衛をしていただけないでしょうか? もちろん、報酬はお支払いします」
「えっと……」
どうする? とソフィアが目で問いかけてきた。
それに対して頷く。
目的地は同じみたいだ。
なにより、ここで放っておくなんて寝覚めの悪いことはできない。
「わかりました、受けます」
「ありがとうございます」
少女と執事が揃って頭を下げた。
「あぁ、安心しました。あなた達のような強い方が一緒なら、もう盗賊や魔物の心配はしなくてよさそうです」
「がんばります」
「それと……」
少女がこちらを見る。
「お名前をうかがっても?」
「フェイト・スティアートです」
「フェイトさま……私は、ナナカ・エイシアと申します。実は、もう一つお願いがあるのですが……」
「えっと、なんでしょう?」
ナナカは僕の手を掴んで、じっとこちらを見つめる。
「私と結婚していただけませんか?」
本日から更新を再開します!
第二部スタート、という感じです。
またよろしくお願いします。