401話 花嫁
「はい、こちらで終わりになります」
別室に案内されて、30分ほどでタキシードに着替え終わる。
初めて着るものだから大変だったけど、専門のスタッフが手伝ってくれたおかげでなんとかなった。
「へー……いいじゃない、うん。馬子にも衣装っていうものね」
「それ、褒めている?」
「当たり前よ。リコリスちゃんが誰かを褒めるなんて、3万年に一度あるかないかよ」
とんでもない確率だ。
「ま、安心しなさい。いい感じに男前になっているわ」
「そ、そうかな?」
ちょっと照れた。
でも、嬉しい。
その時、コンコンと扉をちょっと乱雑にノックする音が響いた。
扉が開いて、アイシャとスノウが顔を見せる。
「おー、おとーさん、かっこいい!」
「オンッ!」
二人は目をキラキラとさせて、僕のタキシード姿を褒めてくれる。
ただ、そんな二人もおめかししていた。
アイシャは可愛い服に着替えて。
スノウも首と尻尾にアクセサリーをつけている。
「どうしたの、それ?」
「わたし達も一緒に、って言われたの」
「そうなの?」
「えへへー。おとーさん、可愛い?」
「うん、すごく可愛いよ」
「やった!」
「スノウはかっこよくなったよ。首輪と尻尾の鈴、よく似合っているよ」
「オフゥ」
アイシャが抱きついてきて、スノウは頭を擦り付けてきた。
そっか、二人も一緒なんだ。
見ているだけじゃ退屈かと気になっていたけど、これなら安心だ。
「ちょっとちょっと、それじゃああたしはどうなるの?」
「リコリスのこともお願いしてみるよ。妖精が一緒なんて、たぶん、向こうは嬉しいと思うから」
そんな話をしていると、再び扉をノックする音が。
そして……
「……」
思わず言葉を失う。
扉が開いて姿を見せたのは、ソフィアだった。
白を基本としたドレスに身を包んでいる。
胸元にあしらわれた白のバラの造花が綺麗で、彼女の美しさに文字通り花を添えていた。
それに化粧もしていた。
派手なものじゃない。
淡いリップと……頬とか目元になにか。
ダメだ、化粧はさっぱりわからない。
でも、いつものソフィアとがらりと印象が変わっていた。
ちょっと手を加えただけのはずなのに、別人みたいだ。
これが化粧の力。
「どうですか、フェイト?」
「……」
「こうしてドレスを着ていると、ちょっとうわついた気持ちになってしまいますね。なんていうか……ようやく、あの約束を果たすことができる、そんな気持ちになってしまいます」
「……」
「まあ、今回はモデルなので、本番ではないんですけどね……って、フェイト?」
「うわっ」
ソフィアが距離を詰めてきて、ぐいっとこちらの顔を覗き込んできた。
「もう、さっきから黙ってどうしたんですか?」
「あ、いや……それは、その……」
「綺麗だよ、とか。可愛いよ、でもいいんですけど……なにかしら感想が欲しいのですが? ……似合っていない、ということはありませんよね?」
「それは絶対にないよ!」
ついつい強く否定してしまう。
ソフィアのドレス姿が似合っていない?
そんなことありえるわけがない、天地がひっくり返ってもありえない。
「その、なんていうか、えっと……あーもうっ、うまく言葉にできない! けど、すごくすごくすごく綺麗だよっ!!!」
とにかく、その一言だけは伝えないと思い、たくさんの笑顔と強い思いを込めて言った。
ソフィアは目を大きくして……
次いで、ほんのりと優しく笑う。
「ありがとうございます」
僕の花嫁は……こんなにも綺麗だ。