388話 最終決戦・その9
「ふんぬぅううううう……!!!」
リコリスは美少女らしからぬ声をあげていた。
それも仕方ない。
彼女は今、僕を抱えて空高くを飛んでいる。
「だ、大丈夫……?」
「平気、よぉっ!!! これ、くらい!!! ウルトラワンダフル……あっ、マジ重い」
軽口を叩く余裕もないみたいだ。
魔法を使っているとはいえ、人一人、抱えて飛ぶのはさすがに辛いのだろう。
ここまでさせてしまって申しわけない。
でも、これくらいしないとジャガーノートは……
「リコリス、この辺りでいいよ」
すでに雲の上に出ていた。
これくらいの高さがあれば……
「だーめ、まだまだ上にいくわよ」
「でも……」
「あたしなら大丈夫よ! なんていったって、天才美少女妖精リコリスちゃんだもの!」
「……うん、お願い」
みんなが必死に足止めをしてくれている。
絶対にミスは許されない。
だから、もう少しがんばってもらうことにした。
その間、僕は呼吸を整えて、深く集中する。
お腹の下辺りで力を練る感じで、全身に気を巡らせていく。
「ぬぅりゃああああああああああっ!!!」
やはりリコリスは美少女らしからぬ声をあげて、さらに上昇。
飛んで、飛んで、飛んで……
そして、ついには周囲が暗くなるほどの高さまできた。
心なしか息苦しい。
「はぁっ、はぁっ……ここが限界よ」
「ありがとう、リコリス。これだけあれば十分だと思う」
「……ホントにやるの? これ、ダイナミックな自殺にしか思えないんだけど」
「これくらいやらないと、ジャガーノートを止めることは……ううん。倒すことはできないよ」
倒す、と言い換えた。
彼はもう止まらない。
止められない。
なら、せめて終わらせてあげることが救いだろう。
そう信じる。
「じゃあ……ほい」
リコリスの手で、光の鱗粉のようなものが僕の体を包み込む。
「これで数回だけ、フェイトも風の魔法が使えるわ。軌道調整に使って」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、いくわよ? 準備はいい?」
「いつでも」
即答だ。
この作戦を思いついた時から、すでに覚悟は決まっている。
「じゃあ……」
リコリスは、ぱっと僕を離した。
それだけじゃなくて……
「美少女妖精リコリスちゃん必殺奥義、ミラクルフェイト……あたぁぁぁぁぁっく!!!」
ばんっ! という音と共にリコリスの魔法が炸裂した。
瞬間的に業風を生み出す魔法で、そして……
「くっ!」
僕の体は真下に飛ばされた。
落ちる、落ちる、落ちる。
加速、加速、加速。
空が遠く、どんどん地面が近づいてきた。
重力で加速して、空高くからの一撃を叩き込む。
それが僕が思いついた策なのだけど……
「さすがに、怖い……かも!? うわわわわわっ!?」
新作始めてみました。
『執事ですがなにか?~幼馴染のパワハラ王女と絶縁したら、隣国の向日葵王女に拾われて溺愛されました~』
こちらも読んでいただけると嬉しいです。




