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38話 信じられそう

「ここが、十一層への道よ」


 部屋の中央にある泉から水が抜けて、その奥から階段が現れた。

 リコリスが操作しないと先に進めない仕掛けになっているらしい。


「でも、それならどうして魔物が?」

「ゴースト系の魔物だから、すり抜けられたの。結界を張っているわけじゃないから、防ぎようがなくて……」

「なるほど」


 ゆっくりと隠し階段を降りていく。


 俺とソフィアは、共に剣の柄に手をかけていた。

 いつ、なにが起きてもいいように、最大限の警戒が必要だ。


「そういえば……」


 ふと思い出した様子で、ソフィアが尋ねる。


「今まで、十層に到達した人はいなかったのですか?」

「何人かいたわよ」

「その人たちに頼むということは?」

「しないわ。だって、どいつもこいつも財宝のことばかりしか頭になくて、あたしのお願いなんて絶対に聞いてくれそうにないんだもの。たぶん、あたしが姿を見せても、『やった、超絶美少女可憐妖精だ! 捕まえて売るか、一生、かわいがろう!』っていう反応しかないわね」

「さりげなく自分をアピールするところはともかく……そうですね。妖精であるリコリスの頼みを聞くような人は少ないでしょうね」

「そうかな?」

「そうですよ。基本的に、世の中の冒険者は、あのシグルド達のような連中が多いですよ」

「いやな世の中だなあ……」


 とはいえ、ソフィアのような冒険者もいる。

 だから、絶望することないけどね。


「その点、あんたは合格よ!」


 ひらりとリコリスが僕の前にやってきて、ビシッと指を差してきた。


「ちょっと頼りないところはあるけど、でも、それなりに誠実そう。バカがつくくらいの真面目なのかしら? うーん……でも、顔は好みかしら? まあまあね。及第点をあげる」

「えっと……僕、褒められているの?」

「もちろんよ。このあたしがここまで言うなんて、なかなかないことよ。誇っていいわ」


 普段のリコリスを知らないため、判断のしようがない。


「人間にしては良いヤツっぽいし……なんなら、後でおねーさんが良いことしてあげましょうか?」

「なっ!?」

「?」


 リコリスが妖しく笑い、ソフィアが慌てる。


 しかし、僕は首を傾げる。

 リコリスの言う良いことって、どういうことだろう?


 冒険者としての知識は、シグルド達の奴隷をしていたことで、そこそこあると思う。

 ただ、それ以外の一般常識や専門知識となると、どうにも不得手なところがあり……

 リコリスがなにを言いたいのか理解できない。


「なにを言っているのですか、あなたは!? フェイトに変なことを言わないでください!」

「なんでソフィアが怒るのよ?」

「私が、フェイトの幼馴染だからです!」

「それ、アレでしょ? 幼馴染っていうだけで、特に進展していないんでしょ?」

「結婚の約束をしました!」

「どうせそれも、子供の頃の約束なんでしょ? で、ソフィアだけが覚えてて、肝心のフェイトは忘れて、いつの間にかなあなあになっちゃう、っていう」

「むぐっ」


 いや、僕はちゃんと覚えているよ?


「そんなんでフェイトを独占しようなんて、片腹痛いわね。この超絶天才可憐かわいいリコリスちゃんが寝取ってあげる!」


 寝取る、ってなんだろう?


「……」

「ソフィア?」

「そのようなことをしたら……斬ります」

「「ひぃっ!?」」


 ソフィアが、キラリとわずかに刃を覗かせた。

 彼女の本気を感じ取り、俺とリコリスは悲鳴をあげる。


 ……そんなバカなやりとりをしつつ、僕らは十一層へ。


 十一層はとても広い部屋だ。

 大人数でスポーツができるほどに広い。


 奥に扉が一つ、見える。

 普通の扉ではなくて、封印が施されているみたいだ。

 たぶん、あれが宝物庫なのだろう。


「魔物は?」

「うーん……それが、どこにいるのかよくわからないのよね。あたしまでやられるわけにはいかないから、二回くらいしか様子を見に来たことはないの」

「なら、どんなヤツなのかもわからない?」

「なんていう種類か、それはわからないけど、姿を見たことならあるわ。壁をすり抜けることができて、ボロ布をまとった骸骨で、大きな鎌を持っていたわ」

「それは、もしかして……」

「死神ですね」


 僕とソフィアは目を合わせて、頷く。

 意見が一致した瞬間だ。


「死神? なによそれ、そんな魔物がいるの?」

「希少種と呼ばれている、数が少なくて、とても珍しい魔物ですね。昔は、人の魂を天に運ぶ使者と呼ばれていたのですが……最近では、ただの質の悪い魔物であることが判明して、各地で討伐されています」

「ただ、けっこう面倒な相手なんだよね? 確か」

「はい、そうですね。リコリスが言ったように、物質透過能力を持つため、なかなかに手強い相手です。Aランクに指定されていますね」


 ソフィアがいるから、Aランクでも問題はない。

 ……なんていう考えは甘く、とても危険なものだ。


 下手をしたら、彼女の足を引っ張ってしまうだろうし……

 そうなると、最悪の事態に発展することも考えられる。

 そんなことにならないように、しっかりと注意していこう。


「見た感じ、魔物はどこにもいないけど……」

「相手が死神だとしたら、壁や床の中に潜んでいてもおかしくありません。気をつけていきましょう」

「そうだね」

「リコリスは、私達から絶対に離れないでください」

「え、ええ」


 どこかに魔物がいるかもしれないと、さすがのリコリスも緊張した様子だ。


 少しずつ歩を進めつつ、周囲の気配を探る。

 今のところ、なにもないけど……


「フェイト!」

「っ!?」


 ソフィアの声に反応して、僕は横に跳んだ。

 直後、地面から鎌が勢いよく生えてくる。


「……外シタカ」


 どこからともなく、錆びついた鉄をこすり合わせたような、そんな声が聞こえてきた。


「これ、死神だよね」

「ですね……」

「それにしても、今、鎌だけが飛び出してきたけど……本体は壁や床に潜んだまま、そんな状態で攻撃できるっていうこと? 反則だよね、それ」

「だから、あたしも困っているのよ。追い出そうとしても、すぐに壁や床に潜られて逃げられちゃうし……どうしようもないのよね」


 はぁ、とリコリスがため息をこぼした。


 自分よりも大事な宝物を守るという彼女のために、なんとかして死神を討伐したいものの……うーん、どうすればいいんだろう?


「壁や床に傷をつけることはまずいですか?」

「ん? ある程度なら別にいいけど、どうするつもり?」

「壁や床に潜んでいるなら、それごと、叩き切ろうかと思いまして」


 なんていう力技。


「ソフィアならできるかもしれないけど、下手したら、このダンジョンが崩落しない? あと、リコリスの大事なものが傷つく可能性も……」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! それはダメ、絶対ダメよ!? そんなことしたら、末代まで呪ってやるからね!? 妖精の呪いは怖いわよ。具体的に言うと、えっと、えっと……とにかく怖いの! だから……ひゃあああああ!?」


 天井近くで抗議していたリコリスは、突然、ぬるっと生えてきた骨の手に掴まれた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 性知識も無いとかそこらの貴族令息よりも箱入りだなフェイト? [一言] これ結婚してからが大変かもなぁ 頑張ってね(現)メインヒロインちゃん
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