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377話 ユルセナイ

 『それ』は深い眠りについていた。

 過去に起きた戦いで大きな傷を負い、その治療のために休んでいるのだ。


 王都の下にある地底湖。

 その中で眠り、夢を見る。


 良い夢ではない。

 悪夢だ。


 人間と友になった。

 彼らを導いて、守り……

 時には逆に諭されることがあった。


 戦いになれば背中を預けることができた。

 無防備な姿を晒すことができる信頼があった。


 人間が大好きだった。


 でも……

 裏切られた。


 大事なものを傷つけられて。

 それから、全てを奪われて。

 『それ』はなにもかもなくした。


 許せない。

 許せない。

 許せない。


 『それ』は復讐を誓い、己に従う眷属を作った。

 復讐という使命を与えて、それを果たすための破壊の力を与えた。


 秩序が乱れる。

 混乱が広がる。

 たくさんの悲鳴が流れて、たくさんの血が流れた。


 でも、それがどうした?

 自分は全てを奪われたのだ。

 なら、奪い返してもいいだろう?

 その権利があるはずだ。


 迷いはない。

 まっすぐで、ある意味で純粋な想いで……

 『それ』は復讐を果たす。

 それだけを考えて生きる。


 生き物は生を求めて生きる。

 他者の命を食べて自分のものにして。

 子供を成して次の世代へ繋げる。

 そうして生の循環を作り上げていく。


 それこそが生命の持つ根本的な使命だ。


 しかし、『それ』は生のことは考えていない。

 ただただ奪い、死を与えることしか考えていない。

 生きることではなくて、終わりのみを求める者。


 それはもはや生き物と呼べるだろうか?

 生き物ではなくて、まったく別のおぞましいなにかだろう。


 『それ』は自身の歪みに気づいていない。

 まったく自覚していない。


 でも、仕方ないだろう?

 全てを奪われたのだ。

 憎しみに囚われて、他になにも見えなくなるのも当然だ。


 だから、『それ』は全てを奪う。


 自分が受けた苦しみを返す。

 自分が受けた痛みを返す。


 それだけが唯一の生きる目的なのだ。


「……」


 『それ』はゆっくりと目を開けた。

 何百年ぶりに意識が戻っただろう?

 あまりに年月が経ちすぎていたため、地底湖の薄暗い中でも眩しいと感じてしまう。


 ゆっくりと目を慣らす。

 同時に思考を整理する。


 本格的な休眠に入る前に分身体を作り出して、色々な命令を与えていた。

 その分身体の名前は……リケンという。


 しかし、今、分身体の気配が感じられない。

 理由はわからないが消えてしまったみたいだ。


 あれからどうなったのか?

 今、なにが起きているのか?

 なにもわからない。

 わからないけど、それならそれでいい。

 些細なことだ。

 やるべきことはただ一つ。


「ニンゲンを……殺ス!」


 さあ、血で血を洗う戦争を始めよう。

 痛みには痛みを。

 恐怖には恐怖を。

 全てを黒で塗りつぶすための復讐を始めよう。


 暗い負の思念に支配された獣。

 かつて聖獣と呼ばれていたが、堕ちて魔獣となったもの。


 その者の名前は……ジャガーノート。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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