367話 リベンジ
「二度、落胆させてくれるなよ」
そう言うと、ゼノアスが先に動いた。
巨体に似合わない速度で踏み込んでくると、その勢いを乗せて剣を振り下ろしてきた。
まともに受ければ、文字通りバラバラになってしまうだろう。
かといって、今度は剣で受け止めることも難しい。
流星の剣でも折れてしまうかもしれない。
防御は無理。
なら……!
「……ここだ!」
「む?」
剣を盾のように構えた。
刃を合わせた瞬間、斜めに倒す。
さらにゼノアスの剣圧に合わせて剣の角度を傾けていき、その軌道を変えてやる。
その試みは成功した。
ゼノアスの剣は僕に届くことはない。
横にズレて地面を叩く。
彼の剣をまともに受け止めることはできない。
でも、受け流すことはできる。
「で……反撃!」
「ちっ」
今度はこちらから踏み込んだ。
ゼノアスの巨体に隠れるかのように、懐に潜り込む。
その状態で突きを繰り出した。
ゼノアスは剣を振り下ろしたままで、まだ引き戻せていない。
防御はできないはずだ。
ただ、回避は問題なく可能だ。
体を捻り、僕の刃をスレスレのところで避けた。
でも、まだまだ。
手に力を入れて、突き出した剣の軌道を強引に横に曲げた。
さらに下から上に。
斜め上に跳ね上がる軌道で追撃をかける。
「……っ……」
ゼノアスは大きく後ろに跳んだ。
初めて後退させることができたような気がする。
「やるな」
小さくつぶやいたゼノアスの頬は、わずかに切れていた。
赤い血がにじむ。
「なぜだ?」
「えっと……」
「前に戦った時は、ここまでの力はなかったはずだ。これほどのプレッシャーを感じることはなかったはずだ。それなのに……」
ゼノアスの顔に余裕の色はない。
「なぜ、ここまで強くなっている?」
「……」
「この短時間で修行をした? いや、そんなはずはない。そんなことをしても意味がない。ならば心の問題か?」
「そうだね、正解」
どうにかこうにか、僕の剣がゼノアスに届いた。
その理由は二つある。
一つは、ゼノアスに徹底的に負けたこと。
心折れるほどに負けて、死にかけて……
でも、なんとかそれを乗り越えたことで、色々と吹っ切れることができたのだと思う。
単純な話、吹っ切れた人間は強い。
色々と思い切りがよくなって、ズンズンと前に進むことができるからだ。
それともう一つは……
「……フェイト……すごいです……」
ちらりと、後ろにいるソフィアを見る。
「もう一つの理由は、あなたにはわからないかも」
「どういう意味だ?」
「ちょっとくさい台詞だけど……愛の力、っていうやつかな」
大好きな人がいる。
守りたい人がいる。
そのために戦うのなら、いつも以上の力を出すことができる。
まったく理に適っていない話なのだけど……
でも、そんなものだ。
そういう曖昧で適当なものが、時に真理だったりする。
「今度は勝つよ。僕のためじゃなくて、ソフィアのため、大事な人のため……あなたを倒す」




