364話 絶体絶命
「かはっ!?」
重力が横になったかのように、ソフィアの体が飛ぶ。
木の幹に激突して……
しかし、それでも止まらない。
木の幹を折り、さらに吹き飛んで、家の塀に叩きつけられた。
ビシリと蜘蛛の巣状に塀にヒビが走る。
ようやくそこでソフィアの体が止まるものの、全身を激しく打ち付けていた。
「うっ……ぐ……」
意識は消えていない。
手足の感覚は残っている。
鈍い痛み。
鋭い痛み。
その両方が同時に襲ってきた。
ただ、それは良いことだ。
痛みがあるということは、まだ体が壊れていない証拠。
戦うことができると、ソフィアは立ち上がる。
「はぁっ、はぁっ……なかなか、やりますね……」
どうにかこうにか再び剣を構えることができた。
ただ、切っ先が揺れてしまっている。
肺がやられてしまったのかもしれない。
口から血があふれ、その度に体力が失われていく。
ゼノアスはゆっくりと歩み寄り、剣の切っ先をソフィアに向ける。
「終わりだな」
「いいえ、まだです」
「いや、終わりだ。確かに、まだ戦えるかもしれないが……その様子では、俺を相手に一秒と保たないだろう」
万全の状態で拮抗していた。
しかし今のソフィアは3割ほどの力しか出せない。
おまけに即座に治療が必要なレベルの怪我を負っている。
詰んでいた。
「お前は強い。男とか女とか関係なく、最強に並ぶ剣士と呼べるだろう」
「それ、皮肉ですか?」
「本心だ。一歩間違えれば、運が悪ければ、そうなっていたのは俺の方だっただろう」
それもまた事実だ。
ソフィアとゼノアスの力は互角だった。
ソフィアは速度。
ゼノアスは力。
それぞれ特化したところはあるものの、総合力は互角で、どちらが勝つかわからない戦いだった。
今回はたまたまゼノアスに勝敗が傾いただけ。
またやれば、次はソフィアが勝つかもしれない。
ただ……
『また』は訪れないだろう。
「お前のおかげで、俺はまた一つ、生を感じることができた。己の存在意義を確かめることができた礼を言おう」
「……」
「せめてもの情けだ。苦しまないように一撃で終わらせてやる」
「……勘違いしないでもらえませんか?」
「なに?」
「まだ、終わってなんていませんよ」
ソフィアはゼノアスを睨みつけた。
手足に力が入らない。
剣をまっすぐ構えることができない。
それでも、戦う意思は消さない。
むしろ、今まで以上に闘志を燃やす。
「勝敗はついた。そのことがわからないほどバカではないだろう?」
「そうですね。このまま戦っても、私は負けるかもしれません。でも、勝てるかもしれません」
「なにをバカな……」
「私は……負けるわけにはいかないのです」
ここで負ければ、アイシャ達が危険に晒されてしまう。
それはダメだ。
絶対にダメだ。
故に、ソフィアは戦う。
母として子を守るために戦うのだ。
「……ならば、最後まで全力でいかせてもらおう」
ゼノアスは剣士としてソフィアに最大限の敬意を払う。
おそらく生涯名前を忘れることはないだろう。
そして……
ゼノアスは地面を蹴り、超速で駆けて、剣を振り下ろした。




