362話 気がつけば……
物心ついた時、ゼノアスは薄汚れた格好で汚い路地にいた。
持ち物は剣が一つ。
それだけで他になにもない。
親の顔は知らない。
友もいない。
一人だけ。
スラムは戦場と変わらない。
気を抜けば死ぬ。
心を許せば死ぬ。
油断すれば死ぬ。
常に死と隣合わせの生活だ。
ちょっとしたことで血が流れて、暴力は日常茶飯事で、笑顔があふれたことなんて一度もない。
毎日毎日血が流れて怒号が飛んでいる。
昨日は見かけた顔が消えているなんて当たり前だ。
そんな中で子供が生きていくことは難しい。
生きるために他人の支配を受け入れて、駒となるしかない。
それはそれで、人を人と思わない扱い。
地獄のような日々が待っていて、生きているだけ、という状態になってしまう。
ただ、ゼノアスは違った。
他人の傘下に入ることはない。
支配を受け入れることはない。
剣を手に、力で道を切り開いた。
斬る。
斬る。
斬る。
邪魔になる者は全て切り捨てた。
それだけの力を持っていた。
こうして、ゼノアスは生を手に入れた。
他者に食いつぶされることなく、理不尽に押しつぶされることもなく。
己のしたいように道を歩いて、生きていくことができた。
その際、黎明の同盟から声をかけられた。
並外れた力を持つために目をつけられて、しかし、敵対する道ではなくて仲間になってほしいと言われた。
ここは地獄。
スラムを抜け出せるのなら断る理由はない。
ゼノアスは誘いを受けて、黎明の同盟の一員となった。
ただ、彼の生きる道は変わらない。
今度は黎明の同盟のために人を斬ることになった。
スラムにいた時と比べると色々な面が改善されたものの、結局、剣を振ることは変わらない。
ただ、それに不満を覚えているわけではない。
むしろ望んでいた。
ゼノアスは剣を振り、戦い続けることを願っていた。
なぜなら、そうして生きてきたから。
剣を振り、戦う。
そうし続けてきたからこそ、今更、他の道を歩むことはできない。
それは己の今までの生を否定するようなものだ。
故に、ゼノアスは戦い続ける。
戦うことが己の生。
剣を振り、力を示すことが存在意義となる。
そうすることで、今ここにいる、と世界に叫ぶことができる。
不器用で。
歪んでいて。
でも、他に生きる道を知らないのだ。
そうするしか知らないのだ。
だからこそ、ゼノアスは強敵を求める。
戦うことで己を証明して、存在意義を求めて、生を実感することができる。
なれば、弱者を相手にしても仕方ない。意味がない。
己と渡り合うことができる強者でなくてはいけない。
命を賭けた戦いをして……
そこで初めて、生と死の両方を感じることができる。
そうして命を覚えることができる。
悪意はない。
もちろん善意もない。
あるのは生を求める渇望と、その意味を問いかける願いだけ。
剣を取り。
剣を振り。
今までそうしてきたように、これからもずっと同じことを続ける。
過去を振り返ることなく、前だけを見る。突き進んでいく。
いつか倒れるその日まで。
「俺は……戦う」




