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36話 最下層

 話を聞くと、ソフィアは暗闇の中に閉じ込められていたらしい。

 彼女の推測では、トラップで亜空間に飛ばされたのではないか? とのこと。


 出口はなし。

 脱出する方法はわからない。


 ならば、いっそのこと次元を切り裂いてみようか?

 なんて、とても物騒なことを考え始めた頃……

 突然、トラップが解除されて、ここに戻ってこられたという。


 そんなソフィアに、ここで起きたことを説明した。


「私の偽物が……なんて厄介なトラップを。私がそちらのトラップにかかっていたら、危なかったかもしれませんね」

「え? そうかな? ソフィアが苦戦するとは思えないんだけど」

「大苦戦ですよ。フェイトが二人いるなんて……天国じゃないですか!」


 ぐっと拳を握りしめつつ、ソフィアが強く言う。

 その目は、ちょっとおかしい。


「右を見てもフェイト、左を見てもフェイト。すばらしいですね。きっと、私はどちらも持ち帰るでしょうね。そして……はっ!?」

「……」

「えっと……今のは、その、なんていうか……」

「ソフィア」

「……はい」

「とりあえず、なにも見なかった、ということでいいかな?」

「お願いします……」


 ものすごく恥ずかしそうにしつつ、ソフィアは小さく頷いた。

 たまに暴走するところも、彼女らしいところでもある。


「トラップの話だけど……僕の方で解除したから、ソフィアのトラップも解除されたのかもしれないね」

「そうかもしれませんね。ありがとうございます、フェイト」

「ううん、どういたしまして」

「ところで、ソフィアの方はどんなトラップが?」

「大したことはありませんよ。Aランク相当の魔物の群れ、百匹以上でしょうか? それらにまとめて襲いかかられただけですね」

「だけ、って……気軽に言えるようなことじゃないと思うんだけど」

「あれくらい、大したことありませんよ」


 さっき、罠にかかっていなくて本当に良かった。

 心底、そんなことを思う僕だった。


「フェイト?」

「な、なんでもないよ」


 とにかくも、ソフィアが無事でなによりだ。


「こんなトラップ、誰が用意したんだろう?」

「噂によると、妖精らしいですよ」

「妖精が?」

「最深部にある剣は、妖精が鍛えたと言われていますからね。誰にも渡したくないらしく、自分で守り、そのためにトラップを設置した……と、一部では言われています」

「なるほど、納得できる話だね。でも、そうなると、最深部には剣だけじゃなくて、妖精もいるのかな?」

「かもしれないですね」

「うーん、妖精かぁ……」


 奴隷だった頃、色々なところを回ったけど、妖精を見かけたことはない。


 どんな姿をしているのだろう?

 物語にあるように、小さいのだろうか?

 綺麗な羽が生えているのだろうか?


「見てみたいのですか?」

「え、なんで僕の考えていることが……」

「私は、フェイトのことならなんでもわかるのですよ」


 「なんて」と挟み、ソフィアは舌をぺろっと出す。


「というのはウソです。フェイトは、とてもわかりやすいですからね。考えていることが、すぐ顔に出ます」

「そう、なのかな?」

「そうですよ。カードゲームをする時などは気をつけてくださいね」

「うーん……そんな機会、あるかどうかわからないけど、了解。気をつけるよ」

「では、次の階層へ向かいましょう」


 また同じようなトラップがあるかもしれない。

 あるいは、今以上に凶悪で厄介なトラップがあるかもしれない。


 細心の注意を払いつつ、僕とソフィアは九層の攻略に乗り出した。


 なにが待ち受けているか?

 けっこうドキドキしたのだけど……

 特にこれといって大きな障害に遭遇することはなくて、無事に攻略完了。

 最下層の十層に辿り着いた。


「情報通り、ここが最下層みたいだね」


 まっすぐに伸びた通路の先に扉が見える。

 おそらく、扉の先が最深部なのだろう。

 そう思わせる雰囲気が漂っていた。


 扉の前に移動して、耳を当てて、向こうの様子を探る。


「なにかわかりますか?」

「うーん……少なくとも魔物はいないみたいだけど、細かいところはよくわからないかな。開けてみるしかないかも」

「なら、開けてみましょう」

「ソフィアって、けっこう大胆だよね」

「ふふっ。伊達に剣聖は名乗っていませんよ?」


 ソフィアが前、僕が後ろ。

 ちょっと情けないけど、でも、彼女の方が力は圧倒的なので、これが正しい。


 布陣を決めて、扉の向こうへ突入する。


「……あれ?」

「空っぽ……ですね」


 一目で全部が見えるくらい、小さな部屋。

 中央に泉が湧いているだけで、他になにもない。


「この泉の底に、さらなる階層があるとか?」

「底が見えるので、それはないかと。他に、なにかしら仕掛けがあるのかもしれません。探してみましょう」

「了解」


 二人で手分けをして部屋を調べる。

 見落としがないように、徹底的に調査する。


 ただ、なにも見つけられなくて、時間だけが過ぎていく。


「うーん……あまり想像したくないのですが、もしかしたら、妖精が鍛えたという剣は誰かに持ち去られた後なのかも。これだけ探してもなにもないとなると、そう考える以外に……」

「残念だけど、確かに、そう考えるのが自然かもね……あれ?」


 ふと、違和感を覚えた。


 なんていえばいいのか……

 言葉にしづらいのだけど、なにかがおかしい、と本能が訴えてくる。


「……これは」

「フェイト、どうしたのですか?」

「ちょっとまって、なにかが……」


 その時、第三者の気配がした。

 今まで巧妙に隠していたのだけど、一瞬、気配が漏れた。


「そこ!」

「ひゃあ!?」


 なにもないところに手を伸ばす。

 すると、がしっとなにかを掴むことができて、悲鳴のような声が聞こえてきた。


「えっ、今の声は……というか、フェイトは、なにかを掴んでいるように見えますが……なにを?」

「僕もよくわからないんだけど、ここになにかがいるよ」


 手に伝わる感触からして、手の平サイズより少し大きいくらいだろうか?

 透明な、なにかがいる。


「くうううっ、ちょっと、離しなさいよ!」

「えっ」


 そんな声と共に、ぐらりと景色が歪んで……

 小さな小さな女の子が姿を見せた。

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] この「右を見てもフェイト、左を見てもフェイト。最高じゃないですか」って反応したところで、フェイトが「そっか……僕じゃなくて偽物でもいいのか……」って滅茶苦茶失望した感じで呟いたらどんな…
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