358話 暗殺剣
どこだ?
どこに消えた?
レナは剣を構えつつ、素早く周囲に視線を走らせた。
感覚を研ぎ澄ませて気配も探る。
しかし、リケンを見つけることはできない。
「っ!?」
再び悪寒が走る。
レナは体勢が崩れるのも気にしないで、思い切り前に跳んだ。
その直後……
さきほどまで立っていた場所を刃が駆け抜ける。
どのような技を使ったのか?
斜め後ろに回り込んでいたリケンが剣を振るっていた。
「ふむ、二度も外すか……さすがだな」
「なにそれ? まったく見えないんだけど……」
「当たり前だ。これが、儂の真の力。十数年しか生きていない小娘に見破れるようなものではない」
リケンが使っているものは、暗殺剣だ。
剣の腕を磨くのではなくて。
対象を殺すことだけに特化した殺人剣。
視線、体捌き、足運び……などなど。
ありとあらゆる要素を使い、組み合わせることで、相手の視覚情報を乱す。
結果、姿を消すことができる。
極限まで高められた技術は魔法と変わらない。
それを体現してみせた技だ。
「そんな技、初めて見るんだけど?」
「見せていないからな」
「ボクのこと、疑ってたわけ?」
「いいや。見せる価値もないと侮っていただけだ」
「言ってくれるね……!」
レナは体勢を立て直して、改めて剣を構えた。
リケンも剣を構える。
そして……
再びリケンの姿が消えた。
「くっ」
レナは初めて焦りの表情を見せた。
どれだけ目を凝らしても。
どれだけ集中しても。
リケンを見つけることができない。
完全に索敵から逃れていて、捉えることができないでいた。
いつ攻撃が来るのか?
どこから来るのか?
それは、果たして致命傷になりえるのか?
色々なことを考えて、悪い想像もしてしまう。
相手が見えないからこそ、余計に悪い想像も膨らんでしまう。
とても厄介な相手だった。
「見えないなら……」
ふと、レナは閃いた。
試してみる価値はあると、体を低くして、剣を鞘に戻す。
「まとめて薙ぎ払えばいいよね! ……裏之二、鳳凰!」
超高速で抜剣。
それと同時に回転して、刃と衝撃波を周囲に散らす。
全方位を攻撃できる奥義だ。
しかし……
「甘いな」
「あぐっ!?」
リケンはレナの背後を取り、その背中を斬りつけた。
今度はまともに受けてしまい、深い傷ができる。
レナは慌てて距離を取る。
痛みは無視できる。
しかし、流れる血はどうしようもない。
体温と共に体力が失われていく。
「今の、どうやって避けたのさ……?」
「教える必要はないな」
「ケチ」
「それよりも……チャンスをやろう」
「え?」
「戻ってこい」
そう言って、リケンはレナに手を差し出した。




