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356話 一度は言ってみたいこと

「やっほー」


 宿の表で、レナはにっこりと笑みを浮かべていた。

 その笑顔を向けている相手は、年老いた男……リケンだ。


「レナか。なぜ、ここにいる?」

「決まってるでしょ。リケンの邪魔をするためだよ」

「裏切り者め……ここまで面倒を見てやった恩を忘れたか」

「ボクを育ててくれたのはお父さんとお母さんだよ? 二人が死んだ後は、ボク、自分の力で好きに生きてきたからね。面倒なんて見てもらった覚えはないんだけど」


 そんなことを言われるなんて納得できない、とレナは唇を尖らせた。


「儂の邪魔といったな? 具体的には、どうするつもりだ?」

「わんちゃんズを連れて行くつもりなんでしょ? それを邪魔するの」

「巫女と神獣の重要性は理解しているな?」

「そだねー。二人を材料にすれば、とんでもない魔剣を作りあげることができる。そして……その魔剣を使えば、始祖の封印を完全に解くことができる。黎明の同盟の悲願を達成できるね、おめでとう。まあ、ボクが邪魔するんだけど」

「……」


 リケンはなにも言わずレナを睨みつけた。


 常人なら失神してしまうような殺気を浴びせられる。

 いや。

 失神では済まなくて、そのままショック死してしまうかもしれない。


 それでもレナはけろりとしていた。

 頭の後ろで手を組んで、ぴゅーぴゅーと口笛を吹いている。


「どけ」

「やだよ」

「なぜ、連中に味方をする? 我らの願いを忘れたか? 恨みを忘れたか?」

「うん、忘れた」


 レナはあっさりと言う。

 あまりにもあっさりと言うものだから、リケンは呆気に取られてしまう。


「まあ、気持ちはわかるよ? 酷い目に遭わされて、その事実をなかったことにされて、そうした連中は今ものうのうと生きているんだからね。ボクも昔はむかついていたよ?」


 「でも」と間を挟み、レナは言葉を続ける。

 その表情は優しくて、温かくて……

 そして、年頃の女の子のものらしい笑みを浮かべていた。


「でもさ、復讐よりも大事なことってあると思うんだ。冷たいことよりも温かいことが必要な時って、あると思うんだ」


 レナはフェイトのことを思い返した。


 彼を好きになったこと。

 敵として剣を交わしたこと。

 そして、色々な言葉をかけてもらったこと。


 そのどれもが温かい思い出だ。

 思い返す度に胸が温かくなる。

 復讐という冷たくて暗い感情は浄化されていく。


「ボク、フェイトのおかげで、本当の意味で人間になることができたような気がするんだ。それまでは『復讐』っていうものに突き動かされる殺人人形で、自分の意思を持っていなくて……でも、今は違う。ボクは、ボク。レナ・サマーフィールド。そう言うことができる。自分を持つことができた」

「……」

「『今』が好きなんだ。ボクは、本当の意味でボクらしく生きることができる。だから……」


 レナは腰に下げているティルフィングの柄に手を伸ばす。


「それを壊そうとするのなら、リケンは敵だよ」

「……残念だ」


 リケンも己の魔剣に手を伸ばした。


「儂はお主のことを買っていたのだがな。お主なら、いずれ、黎明の同盟を背負って立つことができる、と」

「買いかぶりじゃない? ボク、好き勝手していただけなんだけど」

「お主は勘がいい。だから、勘で動いていたとしても、結果的に良しとなることが多いのだよ」

「ふーん。ま、今はどうでもいいけどね」

「そうじゃな、どうでもいいことだ」


 二人の闘気が高まる。

 剣に手を伸ばして、睨み合う。

 ただそれだけなのに、すでに死闘を繰り広げているかのような緊張感があった。


 いくらかの人がレナ達に気がついて、危ういものを感じたらしく、慌てて逃げていく。

 なにが起きるのだろう? と眺める者もいるが、十分に距離をとっている。


「やる?」

「ああ、そうしよう」

「じゃあ、これを合図にしようか」


 レナは銅貨を取り出した。

 リケンから視線を外すことなくて、パチンと弾いて宙に放る。


 銅貨はくるくると回転しつつ舞い上がり……

 一定の高さまで来たところで止まり、落下を始める。


「……」

「……」


 二人の視線の間を銅貨が落ちていき、


「「はぁっ!!!」」


 チャリン、と銅貨が地面に落ちると同時にレナとリケンは剣を抜いた。

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【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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