354話 攻撃開始
「各員、準備はいいですか?」
エリン率いる特務騎士団は墓地の前に集結した。
ここまできたら正面決戦しかない。
物陰に隠れるということはせず、堂々と姿を晒していた。
他にも通常の騎士も作戦に参加していた。
いざという時に備えて、戦場になるであろう墓地を隔離して……
討ち漏らすことがないように完璧な包囲網を敷く。
冒険者も集結していた。
黎明の同盟の最終的な目的は不明ではあるが、それが達成された場合、王都は大きな打撃を受けるだろう。
ホームグラウンドである王都が壊滅すれば仕事どころではない。
なによりも大事な人の笑顔が消えてしまう。
それを守るために、冒険者達も協力することになった。
その先頭にクリフがいる。
「大変なことになったねえ」
「……このような時に、なぜそんなにも呑気なのですか?」
あくまでもマイペースを貫くクリフに、エリンは少しイラッとした様子で言う。
それでも尚、クリフは笑ってみせた。
「適度に肩の力を抜かないと。リラックス、リラックス。ドーナツ食べるかい?」
「いりません」
「おいしいのに」
どこからともなくドーナツを取り出して、クリフはぱくりと食べた。
「いいですか? これは王都の存亡を賭けた戦いと言っても過言ではありません。あなたはもっと真面目に……」
「わかっているよ」
エリンのジト目を受けて、クリフは少しだけ表情を真面目にする。
「……もう二度と、あんな悲劇は繰り返したくないからね」
「あなたは……」
そう言うクリフが思い浮かべているものは、故郷だ。
なにもないけれど、穏やかな時間を過ごすことができた優しい場所。
たくさんの笑顔にあふれていたところ。
大事な友達がいた地。
でも……今はもうない。
魔物の襲撃を受けて壊滅した。
その時のことは、今も昨日のことのようにはっきりと覚えている。
悲しみと怒りを胸に抱えている。
だから……
「なんとしても、食い止めないとね」
「……それを理解しているのなら構いません」
「おいしいドーナツを食べるためにも、またがんばらないと」
「結局、それですか」
今度はエリンは怒ることはなくて、苦笑した。
なんだかんだ、ほどよくリラックスできたらしい。
「では……」
すっと、エリンの表情が切り替わる。
抜き身の刃のような鋭い目。
剣をゆっくりと抜いて、高く掲げる。
そして……一気に振り下ろしつつ、鋭く叫ぶ。
「突入!!!」
――――――――――
街の外れ……墓地の方が騒がしくなった。
詳細を知らされていない街の人は不安そうにしつつ、騎士達に言われるまま自宅に引き返している。
戒厳令が敷かれ、家で待機することが命じられたのだ。
「……」
その様子を宿の窓から眺めていたソフィアは、部屋の中に視線を戻した。
「すぅ、すぅ……」
「……オフゥ……」
「すかー……すぴかー……」
アイシャとスノウが折り重なるように寝て、その上でリコリスが寝息を立てている。
「……今は、大事なものを守ることだけを考えないと」
そう自分に言い聞かせて、ソフィアは部屋の外に出た。




