352話 久しぶりの邂逅
フェイトは強い。
とんでもない身体能力と恐ろしい成長速度。
いずれレナやソフィアをしのぐ剣士になるだろう。
でも、今はまだ雛のようなもの。
ゼノアスと激突すればタダでは済まない。
おそらく、ほぼほぼ100パーセントの確率で負けるだろう。
ただ、逃げに徹すれば生存の可能性はある。
だからフェイトはスラム街に逃げ込んで、ゼノアスの目をごまかした。
「……うん。そう考えれば納得できるかな?」
レナは考えを整理して、それから厳しい表情を作る。
今の推理が正しいとしたら、フェイトはかなりのピンチだ。
ゼノアスに追われているかもしれない。
大怪我をしているかもしれない。
身動きが取れなくなっているかもしれない。
死んでいるかも、という可能性もあったのだけど……
最悪の想像だけは避けておいた。
想像だけでもフェイトが死んでいるなんて考えたくない。
「急がないと、だね!」
レナは気を引き締めてスラムを駆けた。
最大限、周囲に気を配りつつ……
あちらこちらに視線をやり、フェイトを探す。
あるいは手がかりを探す。
ただ、見つかったのは意外な相手だった。
「妙な気配がしたと思えば、お前か。レナ」
「げっ!? ゼノアス……!」
フェイトではなくて、フェイトを倒したであろうゼノアスと遭遇することになった。
レナは反射的に、腰に下げたティルフィングの柄に手を伸ばす。
ただ、ゼノアスはなにもしない。
臨戦態勢に入ったレナを前にしても、背中の剣を取ることはない。
仲間だから、という意識は彼にない。
レナが斬りかかってきたとしても、即座に対応できる自信を持っているのだ。
「くぅ……その余裕、ムカつく」
「なんの話だ?」
「いいよ、別に。それよりも……フェイトはどこ?」
「フェイト? ……ああ、あの少年か。久しぶりに戦う価値のある相手だった。強いな」
「やっぱり、もう……」
「惜しむべきことは、最後まで決着をつけていないことか。俺も探しているのだが、知らないか?」
「知ってたとしても教えるわけないじゃん」
べーと、レナは舌を出した。
それと同時に、内心で安堵する。
ゼノアスの口ぶりからすると、フェイトはまだ殺されていないみたいだ。
そして、ゼノアスからは戦意がほとんど感じられない。
探しているといったが、ついでのようなもの。
おそらく、もう本拠地に帰るのだろう。
「そういえば、レナは同盟を抜けたらしいな」
「耳が早いね?」
「リケンから聞かされた。レナは裏切り者だから、見つけたら斬るように、ともな」
「っ……!!!」
レナは前かがみになり、いつでも抜剣できるように体勢を整えた。
ゼノアスの一挙一動を見て、最適な答えを導き出せるように思考を加速させる。
しかし……
ゼノアスが剣を抜くことはない。
それどころかレナに背を向けた。
これがリケンなら不意打ちや油断を誘う罠を疑うが、ゼノアスはそのようなことはしない。
戦闘狂ではあるものの、戦闘狂だからこそ戦いは真正面から純粋に楽しむタイプなのだ。
レナは拍子抜けしてしまい、戸惑い気味に問いかける。
「えっと……ボクを斬らないの?」
「アジトに攻めてきたのなら別だが、たまたま会っただけだからな」
「それ、後でリケンに怒られない?」
「知らん。俺は俺のやりたいようにやる。誰であろうと、俺に口出しはさせない」
黎明の同盟の最強の剣士だからこそ、そんなことを口にできる。
もしもレナが似たようなことを口にしたら、即刻、粛清されていただろう。
「それに……」
ゼノアスは一度、レナを振り返る。
その目には優しさがあった。
「迷惑かもしれないが、レナのことは妹のように思っていた」
「……ゼノアス……」
「できることなら、俺に妹を斬らせるな」
そう言い、ゼノアスはスラムから立ち去った。